ヒューゴー賞、ローカス賞の二冠に輝くヴァーナー・ヴィンジの大作。
2030年代、サッカーの試合で流れたサブリミナルとも考えられるCMが実は人類をマインド・コントロールするための細菌兵器だった!という壮大な陰謀から始まる作品は、物語のはじめに影の首謀者が明かされ、さらには「ウサギ」と呼ばれる謎のハッカーが登場し、電脳空間を舞台にした壮大な諜報合戦が描かれるかのように始まります。
ところが、すぐに物語は、アルツハイマーから最新の治療法に寄って回復した75歳の詩人ロバート・グーに焦点が移ります。
気難しくて人を見下しお世辞にもいい人間とは言えないロバートですが、彼の「リハビリ」を通して、ヴィンジはうまく読者を近未来へと導きます。
特殊なコンタクトをつけることで、現実世界にバーチャルなイメージを重ねあわせることができるようになった世界というのは「電脳コイル」みたいな感じですが、それ以外にもさまざまなアイディアが効いています。
短時間で言語などを習得できるかわりにその詰め込みによって深刻な副作用をもたらすJITT(ジャスト・イン・タイム・トレーニング)、図書館の本をすべて裁断しつつスキャナーし、デジタルアーカイブをつくろうとするリブラレオーメ計画。これらの魅力あるアイディアがプロットに上手く絡んで話を引っ張っていってくれます。
最後の冒険活劇みたいな部分に関しては、ちょっとハリウッド映画の様で都合が良すぎるような気もしますが、主人公の老人ロバート・グーはなんだかんだいって魅力がありますし、何よりも面白い近未来を見せてくれる小説です。
レインボーズ・エンド上 (創元SF文庫)
赤尾 秀子
レインボーズ・エンド下 (創元SF文庫)
赤尾 秀子