迷走する高校地理のガイド本?パンカジ・ゲマワット『コークの味は国ごとは違うべきか』

 著者はハーバード・ビジネススクールで史上最年少で教授になった人物で、この本も当然ながら経営学の本なのですが、個人的には「地理」の本として面白く読めました。
 ここで言う「地理」とは、学校にある地理の教科のこと。現在、中学・高校の地理の教科は迷走を続けていて、特に高校の地理Aはひどい!
 自然地理とか地図の事とか人々のレジャーが云々とか、グローバル化とか環境問題とか、いろんな話題が脈絡もたいした繋がりもなく羅列されている状態で、社会科の教員からみても「いずれ高校地理ってなくなるんじゃんない?」と思わせるような状況です。
 グローバル化のかけ声に流されて、地域の違いといったものをまったく理論化できていないのです。


 そんな「地理」を今後教えていく上でけっこう参考になりそうなのがこの本。
 グローバル化、フラット化が叫ばれる中で、それでも地域の違いは残り、地球はそう簡単にはフラット化しない。グローバル企業はそうした地域の差異に適応しなければ生き残れないと言うのがこの本のメッセージです。
 この本で分析の枠組みとなるのは「CAGE」と呼ばれるもの。
 Cultural(文化的)、Administrative(制度的)、Geographical(地理的)、Economic(経済的)の頭文字を取ったもの。
 当たり前とも言える視点ですが、例えばウォルマートが発祥地のアーカンソー州から離れれば離れるほど収益が悪くなると言う65pのグラフなどを見ると、改めて国や地域ごとの隔たりの大きさというものがわかります。けれども、ウォルマートは販売ではグローバル化で苦戦しているものの、商品の仕入れに関してはグローバル化の恩恵をフルに活用しています。中国から安い商品を大量に仕入れることでアメリカで収益をあげているのです。

 
 このように地域ごとの違いとそれに対する企業の戦略を豊富な例を挙げて分析しているのがこの本の魅力。
 言語を中心とする文化的な違い、その国の経済レベルの違いなどわかりやすいものもありますが、植民地支配の歴史からくるさまざまな制度の類似、港湾システムの効率性など、普通の人にはなかなか気づかない面にも光が当てられています。

 
 あくまでも経営学の本なので、タイトルの「コークの味の違い」のような話を期待するとやや肩すかしを食う部分もあるのですが、そのような違いのある世界の中で企業は本社に権限を集中させるべきか?それとも地域に権限を委譲すべきか?「適応」、「集約」、「裁定」のいずれの戦略を選ぶべきか?など経営学的な部分にも面白いものがあります。
 経営、そして「地理」に興味のある人にお薦めの本です。


コークの味は国ごとに違うべきか
パンカジ・ゲマワット
4163713700