『愛を読むひと』

 『リトル・ダンサー』、『めぐりあう時間たち』と個人的に大好きな映画を撮ってくれたスティーヴン・ダルドリー。特に『めぐりあう時間たち』は00年代の個人的ベスト10、いやベスト5にもはいるんじゃないかってくらい好きな映画なんですが、そんなスティーヴン・ダルドリーが取り組んだのは世界的ベストセラーであるベルンハルト・シュリンクの『朗読者』。
 ただ、個人的に『朗読者』はそんなにいい小説だとは思えなかったんですよね。
 プロットはよく出来ているし、読者の引っ張り方もうまいですが、いまいち人物に魅力がないというか、魅力的な場面や文章がないというかで、何となく薄い印象しかない小説です。


 ところが、さすがスティーヴン・ダルドリー
 そういった原作の弱さを、ほぼ完璧に補強してみせたと言えるでしょう。
 以下ネタバレもありなので、ネタバレが嫌な人はここまでで。




 まず、何といってもケイト・ウィンスレットの演技。
 魅力的な年上の女性、なおかつ文盲で無学、さらにはもと親衛隊の一員で看守。けれども、秘めた向学心は人一倍ある。そんな難しい役を見事にこなしています。
 『タイタニック』のころは、どこか「ダサさ」が目立った感じでしたが、今はその「ダサさ」が「強さ」や存在感に置き換わってる感じ。
 全体的にいいですが、特に教会で聖歌隊の歌を聴くシーンとかは素晴らしかったと思います。


 さらに男のほうの描き方もうまいです。
 最初にマイケル役の少年が出てきたときは、「こんなやつなのか?」と思ったのですが、ケイト・ウィンスレットを演じるハンナと出会い、愛を重ねるうちにどんどん顔が生き生きしてくる。
 そして、ハンナが姿を消し法廷での再会。
 今度は悩む男、あるいは卑怯な男の顔になっていきます。
 『リトル・ダンサー』でもそうでしたが、ダルドリーは少年の成長を描くのがうまいですね。


 そして、ハンナの時を知った喜び、そしてその最後の描き方もうまいし、泣かせる。
 マイケルが刑務所に送ってきたテープを初めて聞いたときのハンナ、文字を知ったハンナが初めて出した手紙、そして刑務所のハンナの部屋を訪ねたマイケルが見つけるチェーホフの「犬を連れた奥さん」を写した書き付け。いずれも泣かせるシーンです。
 『リトル・ダンサー』のお父さんのスト破りのシーンは今まで見た映画の中でもトップクラスの泣けるシーンだと思うのですが、この映画も泣けます(実際に涙を流すタイプではないですけど)。


 原作を読んでストーリーを知っていたこともあって、『めぐりあう時間たち』のような衝撃はなかったですけど、これも非常によく出来た映画。
 同じくイギリス出身のサム・メンデスとともに、スティーヴン・ダルドリーは「ドラマ」を撮らせたらピカイチの監督ですね。


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