チャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション』

 早川<プラチナ・ファンタジイ>シリーズ、久々の新刊は2段組650ページ超のボリュームを誇るチャイナ・ミエヴィル『ペルディード・ストリート・ステーション』。
 Amazonにも載っている紹介はこんな感じ。

《バス=ラグ》と呼ばれる蒸気機関と魔術学が統べる世界で、最大の勢力を誇る都市国家ニュー・クロブゾン。その中心には巨大駅ペルディード・ストリート・ステーションが聳え、この暗黒都市で人間は鳥人や両生類人、昆虫型や植物型の知的生命体と共存していた。
大学を辞め、独自の統一場理論の研究を続ける異端の科学者アイザックは、ある日奇妙な客の訪問を受ける。みすぼらしい外套に身を包んだ鳥人族〈ガルーダ〉のヤガレクは、アイザックに驚くべき依頼をする。忌まわしき大罪の代償として、命にもひとしい翼を奪われたヤガレクは、全財産とひきかえにその復活をアイザックに託したのだった。
飛翔の研究材料を求めはじめたアイザックは、闇の仲買人から、正体不明の幼虫を手に入れる。そのイモ虫は特定の餌のみを食べ、驚くべき速さで成長した。そして、成虫となった夢蛾スレイク・モスが夜空に羽ばたくと、ニュー・クロブゾンに未曾有の大災害が引き起こされた。モスを解き放ってしまったことから複数の勢力から追われる身となったアイザックは、夢蛾を追って、この卑しき大都市をさまようこととなる。翼の復活を唯一の望みとするヤガレクとともに……。
英国SF/ファンタジイ界、最大の注目作家であるミエヴィルが、あらゆるジャンル・フィクションの歴史を変えるべく書き上げたエンターテインメント巨篇。アーサー・C・クラーク賞/英国幻想文学賞受賞作。

 混沌の街に出現した怪物を追う話。これはアルフレッド・ベスターの『ゴーレム100』なんかと同じで、最初は既視感のある展開がつづきます。
 著者のチャイナ・ミエヴィルは左翼で、国際法の博士号のなんかも持っているインテリで、マイノリティ論とかジェンダー、労働運動なんかの話も折り込みながら話が進むんだけど、『ゴーレム100』に比べると、「ふつう」といった感じでそれほど過激でもなく、舞台設定の奇抜さに比べるとやや驚きのない展開かな?という風に前半は進みます。


 ところが、チャイナ・ミエヴィルの想像力は後半になっても尽きるところを知らず、というか後半になるとますます加速し、物語はインフレ的に面白くなっていきます。
 人の精神を食べる怪物スレイク・モスを追うために登場するのは、主人公たちだけではなく、悪魔である地獄の大使に、次元を超越する巨大グモウィーヴァーに、謎の寄生生物を身体に持つ軍団に、生命魔術で改造された改造人間リメイドたちに、さらにはガラクタの中から生まれた人工知能
 文体の面では普通ですが、アイディアの面ではベスターにイーガンとスタージョンル・グィンをぶち込んだ感じで、飽きさせない。このページ数も後半のあふれんばかりの数々のアイディアによって膨らんだのが原因でしょう。後半は一気に読めます。
 そして、ファンタジイにしてはシビアな結末。読者は主人公たちとともにこの巨大な街を通り抜けた、あるいはそこに埋もれた感覚を持つことでしょう。


ペルディード・ストリート・ステーション (プラチナ・ファンタジイ)
鈴木康士 日暮雅通
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