今読んでいる中井久夫『精神科医がものを書くとき』の中の「統合失調症問答」より。
安全装置の発動として考えますと、こういう考えはどうでしょうか。私の友人の神田橋條治氏が、鬱病でいちばん辛いのは、いちばん得意な能力がいちばん低下したと感じることだと言っています。これを聞いて、はっと思ったのは、統合失調症の発病の直前には、ふだんできたらいいなあと思っている能力〜得意になりたいと憧れている能力〜が、ぐっと出てくるように感じられることです。
ーどういうことをかんがえられたのですか。
鬱病は、暴走のかなり手前で制動を掛け、システムの火を落としている。統合失調症では、この制動が働かなくて、暴走の直前に行ってしまう。原子炉の暴走の直前にも規定の出力の数百倍の出力が出るそうですが、それと似た状態が現われます。だから、発病への路は、誘惑的なのです。あの状態を返してくれ、治さないでくれ、治してもいいが、あの状態だけには戻りたいという人が出てくるほどです。(124ー125p)