イスマイル・カダレ『死者の軍隊の将軍』

 驚くべき高水準の作品を刊行しつづける松籟社<東欧の想像力>シリーズの最新作は、アルバニア出身の世界的な作家イスマイル・カダレの代表作『死者の軍隊の将軍』。
 イスマイル・カダレの作品は『誰がドルンチナを連れ戻したか』を読んだことがありますが、それは中世の民間伝承をもとにした伝奇的な小説でした。
 で、今作もタイトルからして伝奇的な小説かと思いきや、第2次大戦後のアルバニアを舞台にしたリアリズム的な小説。ただし、登場人物は「将軍」、「司祭」といったようにほぼ名前を持たず、ややカフカ的な世界を感じさせたりもします。


 アルバニアで戦死した兵士の遺骨を収集するために現地に派遣された某国(明示されてはいないがイタリア)の将軍は、山岳地帯のつづくアルバニアで兵士の埋められた場所を掘り起こしていきます。
 本の帯に「掘り起こすのは、遺骨と、記憶と、敵意と、徒労感と…」とありますが、まさにこんな感じ。
 死者たちを掘り返すという陰鬱な作業と、これまた陰鬱なアルバニアの風土の前に将軍の心理は次第に曇って行きます。心理描写を売りにした小説ではありませんが、小説全体から伝わって来る徒労感は、例えばティム・オブライエンベトナム戦争の小説なんかに近い感覚があるのかもしれません。
 そうした意味で、まったく戦闘シーンはないですがこれもまた一つの戦争小説なのでしょう。

 
 ちなみにぜひ引用したい部分があったのですが、イスマイル・カダレ『死者の軍隊の将軍』 - 読書その他の悪癖についての最後にもう引用してあったので、そちらをご覧下さい。


死者の軍隊の将軍 (東欧の想像力)
Ismail Kadare
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