『ヴィヨンの妻』

 映画の日ということで新宿ピカデリーで見てきました。
 新しくシネコンとなった新宿ピカデリーは客の誘導のシステムが悪くて「なんだかなー」ってところもあったけど、映画は面白かったですし、前半を中心にけっこう笑えた。
 知っての通り「ヴィヨンの妻」というのは短編なので、これをどうやって2時間近くの映画にしているのかと思いましたが、原作のセリフと筋を生かしつつ脚本が上手く話を膨らませている。
 特に浅野忠信演じる太宰(劇中では大谷)が上手く描かれていますね。
 今までの太宰はあまりに深刻な破滅型人間として描かれていることが多かったのですが、浅野忠信の演じるこの太宰は、どうしようもなさに中にユーモアがあるという、ひどいんだけどどこかしらに魅力を持った人間。妻夫木聡をつけるシーンなんかは最高だと思います。
 とにかくこの太宰の造形が上手いって思いました。
 この映画を見ると、今までの太宰は偉大すぎたり、深刻すぎる気がしてきます。


 そして、その妻が凛とした魅力を持った松たか子
 貧乏で世間知らずのようでいて、いざ酒場で働き出せば「百万ドルの名馬」。この役を演じられるのはやはり松たか子しかいないですね。
 広末涼子はそんなに魅力的には見えませんでしたが、最後の松たか子に対してみせる勝ち誇ったような顔は絶品!
 妻夫木聡も原作とは違うけど、いかにも妻夫木聡がハマるような役で公演しています。
 

 ただ、脚本と演技の面でやや浮いている気がしなくもないのが、堤真一と彼と松たか子の後半のエピソード。
 原作にも松たか子演じる妻が他の男と関係を持つシーンはあるのですが、映画はややそれが大げさに描かれています。このエピソードがあるから、ラストのセリフが説得力を持つと考えるか、それとも、ラストも原作に比べて大げさになってしまったと考えるかは意見の分かれることろでしょう。
 ただ、太宰ファンにも、あるいは「太宰は暗すぎる」と太宰を敬遠している人にもお薦めできる映画。
 映画全体としての完成度も高いと思います。


ヴィヨンの妻 (新潮文庫)
4101006032