タイラー・コーエン『インセンティブ』

実は、経済学の核となる概念はカネではない。「インセンティブ」である。簡単に言えば、人間に行動を起こさせるものーーその活用術を、子供への家事手伝いのやらせ方、会議のやり過ごし方、歯科医のおだて方、マラケシュでのガイドの雇い方を例に、とことん魅力的にお教えします。
読者は、意外にも高等技術は、自分にも他者にも安易にインセンティブを使ってはいけないTPOを知ることだと知るでしょう。そのほか、読書の技術、芸術の味わい方、食事の楽しみ方、円満な家庭のつくり方等々を、「自己愛(ミー・ファクター)」、「シグナリング」、「自己欺瞞」などを使って最大限サポートするテクニックを伝授します。

というのが、Amazonのページにも載っているこの本の紹介。お金にこだわらず、「人を動かす力」いうものを分析してみせたところにこの本の特徴があります。
 もちろん、経済学者が書いた本だけあって、金銭的な損得について書いてある部分も多いですが、著者の焦点は金銭ではなく、あくまでも人びとの行為の動機の解明にあると言っていいでしょう。
 例えば、次のような部分はわかりやすい例。

 子どもがテストに備えて一生懸命勉強しないのは、成績が良くなかったときに言い訳ができるからだ。一生懸命やると、自尊心を危険にさらすことになる。(171p)

 人が保険に入るのは、約束を果たすという忠誠心をシグナルとして示すためだ。例えば、生命保険に入るのは、残された者を気に掛けていることを示し、愛情を再確認するためであって、遺族がほんとうにカネを必要とするからではない。(126p)


 とまあ、全体的にこんな感じで読み物としては非常に面白いです。
 ただ、「実際ほんとうにそうなのか?」というと、論証の部分は弱いと思います。上の保険の話でも遺族の生活を心配して保険に入る人ももちろんいるでしょう。
 その点で、データと統計で事実を示してみせた『ヤバい経済学』なんかに比べるとやや物足りないところもあります。
 ただ、おいしいレストランお選び方など、うんちくというか話のネタになるようなトピックも満載なので、読んで損はない本だと思います。


インセンティブ 自分と世界をうまく動かす
高遠 裕子
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