そろそろ2009年も終わり、ということは00年代?ゼロ年代?も終わり。というわけで、時間のあるときに00年代振り返り企画をいくつか書きたいと思います。
この10年、一番熱心に追っかけてたのはたぶん音楽。といってもメインストリームのじゃなくてインディーポップ。
90年代は邦楽ではブランキーやミッシェル、洋楽ではRadioheadとかを聴いていた僕は00年代の前半からポップに目覚め、世間的には誰も知らないようなバンドを聴くようになってしまいました。
世間の評価からはずいぶん離れた00年代回顧になりますが、振り返ってみても00年代のロックは一部を除いてつまらなかったと思うし、ロックに取って代わったのはヒップホップかもしれない。それより何より00年代では音楽自体が凋落してしまったのかもしれない。
けど、メジャーではないインディーポップが非常に面白かった10年だと思うのです。
個人的にはロックが「価値への反抗」なら、ヒップホップは「価値の獲得」、そしてポップは「価値の捏造」だと思います。
「戦うべき敵が見えにくくなった」、というか「実はいなくなったんじゃないか?」という疑惑のある00年代おいて、ポップはガラクタの中から必死に「価値」をかき集めて僕たちに差しだしてくれたような気がします。
00年代はトム・ヨークの「ロックなんてゴミ音楽じゃないか!僕はゴミだと思う」という発言とともに送り出されたRadioheadの「KID A」によって、いきなりロックの死が宣告された始まりましたが、この「KID A」がリリースされた2000年はポップの世界でも2枚の重要なアルバムがリリースされた年。
まずは、個人的に00年代のベストアルバム、第1位と言っていいアルバムであるThe Delgadosの「The Great Eastern」。
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スコットランド・グラスゴー出身のバンドThe Delgadosがデイヴ・フリッドマンと組んだこのアルバムは、ストリングスを使った重層的なアレンジ、男女のツインボーカルなど、後のインディーポップのある種のフォーマットと言うべきものを確立した作品ですし、何よりも曲が素晴らしい!
"No Danger"という曲に"now we're singing out of tune"って歌詞がありますが、調子っぱずれに歌うことしか出来なかったのが00年代ではないかと。
もう1枚はBadly Drawn Boyのデビューアルバム「The Hour Of The Bewilderbeast」。
今までのシンガーソングライターの枠を打ち破るような自由な作品で、色とりどりの世界を見せてくれます。Badly Drawn Boyは3rdアルバムの「One Plus One Is One」で、伝統的なシンガーソングライターっぽい作品に戻ってしまいますが、「The Hour Of The Bewilderbeast」はポップのこれからの可能性を見せてくれた作品だと思う。
00年代で個人的に3番目に好きな洋楽アルバムです。
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00年代と言えば、前半はエレクトロニカの躍進が目立ちました。そんな中でヒップホップの要素も取り入れながらエレクトロニカでポップな音楽をつくってみせたのが、Her Space Holidayが2003年に発表した5thアルバム「The Young Machines」。ドリーミーかつそれでいてきわめて個人的な世界が広がっています。
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そして2004年。この年は個人的には非常に重要な年だと思っていて、ロックが社会的に死んだ年。
この年、再選を目指すブッシュ大統領に対して、ブルース・スプリングスティーン、R.E.M.、パール・ジャムらが中心になって『Vote For Change』と銘打って、ケリーへの投票を呼びかけましたが結果は敗北。ロックでは世界は「チェンジ」できないことが明らかになった年でした(イギリスは希代のポピュリストであるブレアによって、なぜだかこの敗北感が共有されずに、そのせいでロックが流行っていたのだと思いますが…)。
そんな中で、明るいぽっぽソングとともにイラク戦争に対して何も出来なかった敗北感をきちんと受けとめたのが、スコットランドのマン島出身のアーティストMULL HISTORICAL SOCIETYの3rdアルバム「This Is Hope」。
まったく話題にならなかった作品ですし、あんま売れなかったみたいですが、個人的には大好き。MULL HISTORICAL SOCIETYはその後、Colin MacIntyreという本名に戻って活動していますが、2008年リリースの「The Water」も、「00年代におけるサブカルチャーの敗北」というものをきちんと受け取っている感じのするいいアルバムです。
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そして2005年、The Delgadosが切り開いたインディーポップのスタイルの傑作が誕生します。それがカナダ出身のバンドStarsの3rdアルバム「Set Yourself On Fire」。
ストリングスを使った華麗なアレンジに、女性ボーカルのエイミーの伸びやかなボーカル、きれいなメロディ一辺倒にはならないような絶妙な崩し。そして、00年代のサブカルチャーを覆う無力感を引受けた上でのポジティヴなメッセージ。Starsはこのあとの4thアルバム「In Our Bedroom After The War」で文字通り「戦後」を歌いますが、この「Set Yourself On Fire」も2004年の敗戦を受けてつくられたアルバム。ラストの"Calendar Girl"の"January,February,March,April,May/I'm alive!/June,July,AugustSet Yourself on Fire
Stars
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00年代は、客観的に見ればヒップホップの時代。そんな中でアングラヒップホップの一つの流れをつくったレーベルAnticonaから出てきてヒップホップともポップとも言える素晴らしいアルバムをつくったのがWhy?。
特にこの2005年発売の2ndアルバム「Elephant Eyelash」は今のところ彼の最高傑作だと思う。このあとはややポップに寄りすぎてややオリジナリティが落ちたかな?
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2005年は個人的には大豊作の年でしたが(Architecture in Helsinkiの「In Case We Die」なんかもこの年)、このSufjan Stevensの「Illinois」は確か翌年聴きました。今までのアルバムがいいもののやや変化に乏しいような気がしていて後回しにしていたのですが、なんだこのカラフルさは!
今まで比較的マイナーなアルバムばかりをとり上げてきましたが、これは雑誌とかの00年代ベストアルバムに入って来るでしょう。
Sufjan Stevensの面白さは、これだけ黒人音楽の影響を受けたバンドが多い中で、彼の音楽は、ほぼ白人的な音楽のルーツだけで構成されているように聞こえる点。ブラスバンド的なアレンジとかはあとでとり上げるLoney,Dearなんかにも共通しますが、この「アメリカ臭さ」というのは特筆すべきものかもしれません。
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The Delgadosの「The Great Eastern」の紹介で、「調子っぱずれに歌うことしか出来なかったのが00年代ではないかと」と書きましたが、調子っぱずれに楽しい音楽を提供してくれたのが、この2006年発売のTilly & The Wallの「Bottoms Of Barrels」。
タップダンスをするメンバーがリズムを取ることもあるこの男女混成のバンドはほとんど学園祭のノリ。メンバーもかなりダサイんですけど、それがまたいい!
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00年代後半、ポップの世界を席巻したのはスウェーデン。
アメリカのインディー勢がすぐに「アート化」してしまうのに対して、スウェーデンのインディーポップには開き直ったようなダサさがあって、それがポップの楽しさを維持している。
Jens LekmanとかLacrosseとかいいアーティストはいろいろいるけど、そんな中で飛車角的な存在がLoney,DearとHello Saferide。
Loney,Dearの魅力を伝えるのは難しいのですが、「音大の作曲学科を出たような作曲能力を持ったやつが、ラテン音楽っぽいリズム感なんかも吸収しつつ、トム・ヨークっぽいファルセットで歌う」という感じでしょうか?
この2007年発売の「Loney,Noir」も派手さこそないものの、その不思議な音楽センスに聴き入ってしまいます。10年代にも期待できる才能!
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そしてHello Saferide。彼女は比較的オーソドックスなシンガーソングライターですが、そのメロディとポップなセンスが素晴らしい!
"2006"という00年代を代表するポップソングの傑作があるのですが、アルバム未収録のため、ここでは2008年発売(US盤が2009年発売)の最新アルバムの「More Modern Short Stories from Hello Saferide」をあげておきます。
"25"という曲の中の"fxxk"の4文字ワードは史上もっともかわいらしい歌われ方じゃないでしょうか?
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というのが僕の00年代のポップアルバムの10枚。
ほんとはここからポップ以外の好きなアルバムをあげようかとも思いましたが力つきました…。
- 追記
やっぱりベストアルバムと銘打っているのに、順位がないのもどうかと思いまして、ポップ以外も含めた00年代のベストアルバムとその順位を。
1位 The Delgados/The Great Eastern
2位 Stars/Set Yourself On Fire
3位 Badly Drawn Boy/The Hour Of The Bewilderbeast
4位 MULL HISTORICAL SOCIETY/This Is Hope
5位 Bright Eyes/Lifted Or The Story Is In The Soil, Keep Your Ear To The Ground
6位 TV On The Radio/Desperate Youth, Blood Thirsty Babes
7位 Why?/Elephant Eyelash
8位 Damien Rice/O
9位 Hello Saferide/More Modern Short Stories from Hello Saferide
10位 Kanye West/808s & Heartbreak
ロックならやっぱりTV On The Radioだったと思います。あとはThe NationalとかYeah Yeah YeahsとかNYのバンドに何かしら新しさを感じさせるバンドがあったような気がします。