マルコ・イアコボーニ『ミラーニューロンの発見』

 「物まね細胞」とも呼ばれるミラーニューロンについてわかりやすく解説した本。
 「人間がなぜ他者の痛みを自分の痛みのように感じる場合があるのか?」、「ドラマなどを見てなぜ登場人物と同じような感情を持つのか?」といったことは、昔から哲学の分野などで考えられてきましたが、とりあえずその問題にある程度の答えを出しそうなのが、このミラーニューロン
 ミラーニューロンは相手の行動などを模倣するとされる脳神経細胞で、このミラーニューロンが相手の行動を模倣することで、私たちは他人に共感できるのではないかと考えられています。

 
 そして、このミラーニューロンのはたらきは共感だけにはとどまりません。
 例えば、次の引用部分などからもわかるように「学習」というものにもミラーニューロンは大きく関わってきそうです。

 ピアジェ派は赤ん坊が「模倣を学習する」と暗に言っていたわけだが、メルツォフのデータを解釈すれば、赤ん坊は逆に「模倣によって学習する」ことになるのだ。(67p)

 つまり、ミラーニューロンによる模倣こそが「学習」の根幹にあるといえるのかもしれません。


 また、自閉症の患者の生涯にもミラーニューロンが関わっている可能性があると著者は主張します。

自閉症児の模倣に関する各種の調査から浮かび上がってきた重要なポイントは、もっとも決定的に損なわれている機能が社会的、感情的な面での模倣能力であって、模倣の「認知」面ではないということである(211ー212p)

のちに自閉症を発症する子供は、母親や父親といった、自分の面倒を見てくれる人物を見ない傾向があり、したがって自分の動きとそうした人々が自分を模倣している動きとを結びつけることができない。そのためにミラーニューロンが形成されること〜強化されることもなくなる。(219p)

 というように、著者は自閉症の要因を感情面の模倣能力を持つミラーニューロンの発育不全と見ています。
 まだこの考えは仮説であり、何とも言えない物ですが、ひょっとすると自閉症の治療に大きなヒントを与える物かもしれません。


 これ以外にも、「メディアと暴力」、「中毒」、「広告の効果」、「政治的な支持」などとミラーニューロンの関係がさまざまな実験を通じて考察されています。
 なかなか面白く、考えさせる実験が多いですが、中身を読む限り多くのものがまだ仮説段階にある感じです。
 ミラーニューロンのはたらきを余すところなく書いたというよりは、現在考えられるミラーニューロンの可能性について書いた本と言えるでしょう。
 ただ、個人的にはミラーニューロンと「倫理」の関係を探ったガザニガの『脳の中の倫理』のほうが面白かったですね。
 (http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20060316 参照)


ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)
Marco Iacoboni
4153200026


脳のなかの倫理―脳倫理学序説
Michael S. Gazzaniga
4314009993