桐野夏生『リアルワールド』

高校三年の夏休み、隣家の少年が母親を撲殺して逃走。ホリニンナこと山中十四子は、携帯電話を通して、逃げる少年ミミズとつながる。そしてテラウチ、ユウザン、キラリン、同じ高校にかよう4人の少女たちが、ミミズの逃亡に関わることに。遊び半分ではじまった冒険が、取り返しのつかない結末を迎える。登場人物それぞれの視点から語られる圧倒的にリアルな現実。高校生の心の闇を抉る長編問題作。

 と、文庫の裏の紹介には書いてあります。
 これだけ読むと、非常にジャーナリスティックな作品に思えるかもしれません。母親を殺す少年と、それを助ける女子高生。これが実際の事件なら週刊誌が何週にも渡って追いかけそうな事件ですし、この作品自体もあえてそういったベタな設定を取り入れているのでしょう。
 桐野夏生は、『グロテスク』では東電OL殺害事件を、『残虐記』では新潟の少女監禁事件を下敷きにしたように、このてのベタなネタが好きな作家です。
 ところが、桐野夏生がフィクション化して差しだす物語というのは、世間一般の欲望する物語とはちょっとずれています。いわゆる、セックス&バイオレンス的な展開が期待される中で、そういった面はあくまでも必要最小限にしか描かれないのです。
 この『リアルワールド』でも、主人公のホリニンナ以外、ある種の性的な経験というのがあって、それもポイントではあるのですが、物語を駆動するのは解説で斎藤環も指摘しているようにあくまでも「関係性」。
 男性作家なら、「性的な経験」というものをまず物語の駆動要因に据えるところですが、そこは意外に淡白。
 その代わりに4人の少女たちが語るのは、自分と友人たちの関係であり、自分の友人に対する自意識のあり方です。


 まあ、この『リアルワールド』は主人公のホリニンナのキャラが他に比べて弱かったり、いちばん複雑な問題を抱えているテラウチの母親との関係が描ききれていなかったり、そのテラウチの独白がどう考えても高校生レベルじゃないといった問題もあって(もっとも、テラウチの話というのは表現の仕方はともかくこの小説で一番魅力的ではある)、『グロテスク』に比べると重さもスピード感も弱いのですが、いかにも桐野夏生的な小説。
 桐野夏生に関してはもう何冊か読んでみたいですね。


リアルワールド (集英社文庫(日本))
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