2001年から2005年までブッシュ政権の財務次官を務めたジョン・B・テイラーの回顧録。
テイラーと言えば中央銀行が利子率をいかに決定すべきかという「テイラールール」を考案した学者として名高いわけですが、この本を読めば実務家としても一流であることがわかりますし、アメリカ財務相の仕事のスケールの大きさというのもわかります。ほとんど世界政府の金融担当大臣という感じ。
そして何より、この本には日本の景気の回復のさせ方が書いてあるのです!
この本を読むとテイラーの手がけた仕事の多さに驚きます。
タイトルもテロマネー対策はもとより、アルゼンチンの危機への対処、IMFや世界銀行の改革、イラク戦をにらんだトルコへの経済支援、そしてイラク戦争後のイラクの経済復興。
特にイラクのフセイン対背の崩壊後の新通貨導入の話は面白いです。この手のことは理論だけでなく実務もしっかりしていないとうまくいかないもので、世界中でイラクの新紙幣を印刷しボーイング747・27機分の紙幣をイラクに輸送したそうです。
また、最貧国への債務削減交渉ではU2のボノと連絡を取って協調姿勢をとったり、アメリカの財務次官ってのは日本のそこらへんの大臣レベルじゃ勤まらないですね。
で、肝心の日本の景気回復策。
この本の第10章でまさに2003年から2004年にかけてとられた日本経済回復が書かれています。
いわゆる「テイラー・溝口介入」とも言われていて、日本の財務官・溝口善兵衛がテイラーの暗黙の了解のもと巨額の「円売りドル買い介入」を行ったものです。
このとき、溝口善兵衛は2003年から1年ちょっとの間に3200億ドルものドル買い介入を行ったとされています。
これによって為替レートは円安に動き、またこの介入によって支出された円を日銀が回収しない(不胎化)によって日本の通貨供給量が増えました。
これが2004年からの日本の景気回復につながったと言われているのですが、この本ではその内幕が生々しく描かれています。溝口財務官はテイラーに介入のたびにメールを送っていたそうで、この介入が日米合作のものであったことがわかります。訳者の解説では「主権在米経済」なんてふうに書かれていますが、そうとられても仕方のないような協調っぷりです。
けれども、これによって日本の景気が上向いたのも事実。バブル崩壊以後、唯一成功した経済対策とも言えるのではないでしょうか?
というわけで、もう1回、こういった政策をすればいいんじゃないか?と思うのですが、対米関係でつまずいている今の鳩山政権では残念ながら無理でしょうね…。