『第9地区』

 最近、ハリウッドではドキュメンタリー風の撮り方が流行っていて、この前アカデミー賞を獲った『ハート・ロッカー』がそうだし、同じイラク戦争をテーマにした『リダクテッド』とか、9.11テロをテーマにした『ユナイテッド93』なんかがそう。
 この『第9地区』も出だしはそんな感じです。ただ、先にあげた3作品がいずれも実際の出来事をリアリティを持って再現するためにドキュメンタリー的な手法を用いているのに対して、この『第9地区』は何か「パロディ」的な風味を出すために用いられている感じです。


 南アフリカヨハネスブルグ上空に出現した巨大な宇宙船。『インディペンデンス・デイ』なら、ここから壮大な破壊が始まるわけですが、この『第9地区』のエイリアンたちは無力で知的なレベルも低い「難民」。この「難民」であるエイリアンたちがヨハネスブルグの郊外に「第9地区」というスラムをつくり、そのエイリアンを立ち退かせるために主人公ヴィカスの所属する企業がその事業を請け負うというのがこの映画の設定です。
 設定だけ聞くと、けっこう社会派っぽく、実際最初は「もし北朝鮮が崩壊して難民が日本に押し寄せたらこんなふうになるのかな?」とも考えましたが、映画が進むにつれてこうした社会派っぽい部分は後退し、B級っぽさが前面に出てきます。
 キャットフードが大好きで、その風貌から「エビ」と呼ばれるエイリアンの生態、スラムに住み着いてエイリアンと取引をする呪術を信じているナイジェリア人のギャングたち、ハンディカメラの前ではしゃいでみせる主人公のバカっぽい行動。いずれも、社会派的な枠組みを解体する要素となっていて、映画の中盤にさしかかるくらいには、すっかりB級映画になっています。


 で、こんな形でそのまま終ってもB級映画として楽しめるのですが、この映画は最後にB級らしからぬスケール感が出てくる。今まで風景にすぎなかった宇宙船が動き出すことで、そこから映画としての広がりが出てくるのです。
 この辺りは非常にうまくて、B級映画だと思っていた映画が「佳作」に化けます。
 個人的には、「傑作」とまでは思えなかったですけど、面白い映画だと思いますし、実は『ハート・ロッカー』よりも映画としてよくできてるんじゃないかなと思いました。