チャイナ・ミエヴィル『ジェイクを探して』

 去年出た、大長編『ペルティード・ストリート・ステーション』が非常に面白かったチャイナ・ミエヴィルの中短編集が登場。『ペルティード・ストリート・ステーション』と同じ<バス・ラグ>シリーズの短編「ジャック」などもありますが、必ずしもSFではなくホラーに近いような作品も多く、『ペルティード・ストリート・ステーション』とはまたちがった印象があります。
 個人的に思い出したのはジョー・ヒルの『 20世紀の幽霊たち』。ホラーと奇想短編を混ぜ合わせたような感じの作品、「ボールルーム」、「細部に宿るもの」、「もう一つの空」あたりはジョー・ヒルの作品と似てるって感じました。


 ただ、小説家としてはジョー・ヒルよりもチャイナ・ミエヴィルのほうが明らかに1枚上手で、そういった上手さが発揮された作品が面白い。
 街の中を人知れず移動する街路を描いた「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」、ある言葉を発音することによって発病する架空の病気・バスガード病を描いた「ある医学事典の一項目」なんかは、なかなか凝った構成で楽しませてくれますし、謎のメッセージを受け取る男を描いた「仲介者」もアイディア的にはありがちだけど読ませる。
 そして「ジェイクを探して」や「鏡」で描かれる「世界が終わったあとのロンドン」の光景。やや思わせぶりな作品ではあるのですが(特に「ジェイクを探して」)、ロンドンの描写から小説に引き込まれる感じです。
 全体的に「オチ」がある作品が少ないので、短編に鮮やかなオチを期待する人は不満が残るかもしれませんが、「読ませる」作品集であることは間違いありません。


ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)
チャイナ ミエヴィル 鈴木康士
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