『キャタピラー』

 最近の日本映画にしては珍しく「熱」のある映画。「熱」という面なら、ポン・ジュノやパク・チャンクなんかの韓国映画にも負けないかも。
 寺島しのぶの旦那の久蔵は四肢を失い、顔は焼けただれた姿となって戦場から勲章と「軍神」という呼称をもって帰ってくる。新聞にも「軍神」として大きな記事が載った久蔵ですが、帰ってきてできることいえば、食べて寝るだけ。しかも、性欲のほうは残っているような状態です。
 そんな夫を貞節な妻の寺島しのぶは必死に支えようとするが…という映画だと聞いていたのですが、寺島しのぶは思ったよりも最初からしたたかで強い。
 やはり夫と妻の上下関係のようなものは、男女の体力差があってのもの。四肢を失い無力になった久蔵は、いくら「軍神」の名があろうと無力なのです。
 だからこの映画は戦争の不条理を訴えた反戦映画であると同時に、夫婦の愛憎を描いた映画でもあり、むしろ個人的にはそちらが印象に残りました。
 何もできず、ただ性欲だけを持て余す久蔵、そんな久蔵に寺島しのぶは憎しみを募らせるわけですが、それは単純な憎しみだけではありません。後半の白いごはんを食べさせるシーンなんかでは思わず愛が溢れます。このシーンは非常にいいシーンなんですが、そういった愛憎を寺島しのぶが本当にうまく演じている!
 最後に原爆の歌を使ったりして変に反戦基調を出すのは個人的にはどうかな?と思いましたが、とても力のある映画だと思います。