マーガニータ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』

 <20世紀イギリス小説個性派セレクション>シリーズの第1弾。
 予定されているラインナップの作者は、このマーガニータ・ラスキ、シルヴィア・T・ウォーナー、マックス・ビアホーム、パトリック・ハミルトン、エヴェリン・ウォー。
 エヴェリン・ウォーこそイヴリン・ウォーの表記で知っていますが、それ以外は聞いたことのない名前ばかり。しかも版元が新人物往来社という日本史もののイメージのある出版社。ということで手を出しかねていたんですが、読んでみると確かにこれは「個性派」。
 なかなかジャンル分けの難しい独特の世界をもった小説です。


 マーガニータ・ラスキは叔父に政治学者ハロルド・ラスキを持つ女性作家で、この小説は1953年の作品。
 弁護士の夫を持ち恵まれた生活をしているメラニーは、妊娠中に結核を発病するが、なんとか無事に出産を終え、さらに結核も治ろうとしている。そんなメラニーが骨董屋で手に入れたヴィクトリア時代の寝椅子に横になって眠りにつくと、いつの間にか彼女の意識は別の女性の中に乗り移っている。
 その女性はミリーといい、時は1864年、まさにヴィクトリア朝の真っ只中であることを知らされるというのが、この小説の出だし。
 ある意味、タイムトラベルものとも言える設定で、読む方はタイトルにもあるヴィクトリア朝の寝椅子の謎を中心に奇想っぽいストーリーが続くのかと考えてしまいます。
 ところが、この本のストーリーの中心は「ミリーという女性が何者で、どんな秘密を抱えているのか?」というものです。
 ヴィクトリア朝の厳しい性道徳の中で、大きな抑圧を受けているミリー。そんな時代に迷い込んだ奔放なメラニー。この対照的な人物設定と、他人の意識に入ったとまどい、そしてミリーの周囲の人物がほのめかすミリーの秘密がこの小説の主な構成要素で、あたかもミステリーを読んでいるような雰囲気もあります。


 まさにとらえどころのない小説ですが、一風変わった設定の中に、極めて女性的な観察眼が生きています。
 「名作」、「傑作」というのとは違いますが、150ページほどの短い小説ながら不思議で強い印象を与えてくれる小説です。
こそが不思議な現象を引き起こした


ヴィクトリア朝の寝椅子 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)
マーガニータ・ラスキ 横山 茂雄
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