フェレンツィの技法についてのメモ(細澤仁『心的外傷の治療技法』より)

 一昨日紹介した細澤仁『心的外傷の治療技法』で書ききれなかったフェレンツィの考えと技法についてメモ。

 フェレンツィ性的虐待が起こる状況として母親との疎遠な関係についても触れている。母親のネグレクトを背景にして、愛情を求める子どものこころを父親が性的に搾取するという構図は現代の私たちにとってもお馴染みのものである。そして、フェレンツィは心的外傷が病因である患者の治療技法に触れている。彼は除反応によって抑圧されていた情動が意識化されると症状が消失するという期待を当初持っていたのだが、そのような技法では持続的効果は生まれず、さらには治療自体が外傷の反復になると語っている。情動のカタルシスは効果があるのだが、それは一時的なものであり、それ自体が外傷の再体験となるのである。さらに、フェレンツィは分析状況そのものが外傷の再演と成っていることに気が付いた。彼によれば、分析家は職業上の偽善から患者への陰性感情を抑圧しているのだが、患者はそれを感じ取っている、とのことである。この状況は患者の小児期におけるオリジナルの外傷状況と似ている。性的虐待を行った大人は罪悪感を感じ、罪悪感を感じさせるた子どもに一層怒りを感じ、それを抑圧し、子どもに対して過度に道徳的になる。つまり、性的虐待は子どもの誘惑により起こったという合理化がなされ、子どもを非難するという偽善的態度を大人は取るのである。陰性転移を抑圧する分析家の偽善は性的虐待を行う大人の偽善的態度と似ており、そこに外傷の再演が立ち現れるとフェレンツィは考えたのである。そして、子どもは外傷への防衛として「攻撃者との同一化」を行い、それを通して「大人の罪悪感の摂取」が起こる。このような力動を持っている患者は治療者への陰性感情を表出できず、そのことが治療の進展を妨げているので、治療者は自らの陰性感情を抑圧せず、理解し、患者と共にそれを検討することが必要であるとフェレンツィは語っている。(57ー58p)


心的外傷の治療技法
細澤 仁
4622075636