パトリシア・ギアリー『ストレンジ・トイズ』

 河出書房の「ストレンジ・フィクション」シリーズ第2弾。フィリップ・K・ディック賞を受賞とのことですけど、これは「サイエンス・フィクション」ではなく、確かに「ストレンジ・フィクション」。
 解説をケリー・リンクが書いていますが、ケリー・リンクの世界に通じるものがあると思います。


 物語は三部仕立てで、第一部は主人公のペットが9歳の頃の奇妙なロード・ムービー的なお話。第二部はペットがティーンエージャーになったときのお話で、最後の第三部は年齢こそわからないけど大人になったペットのお話です。
 で、この中で断然いいのが第一部。
 主人公のペットの一家は問題児で警察の厄介にもなっている姉のディーンから逃れるように、父・母・2番目の姉とペットの4人で旅へと出ます。
 行く直前に忍び込んだ姉の部屋で見た怪しげな木箱の塔、可愛がってた子猫の剥製、そして赤い革表紙の秘密のノート。このノートを盗んだが原因なのか、ペットは旅の行く先先で奇妙な場所、そして現象に誘われます。例えば、ディズニーランドの謎のアトラクション「サミーのスノーランド」、「ヘビ女王サリーのレビュー」、「千ポンドを持ち上げる 世界一強い、巨大なハンナ」、「マリー・ラヴォーのヴードゥーハウス」など。
 これらはペットに不思議な体験をもたらしたり、見掛け倒しだったり、インチキだったりするわけですが、こういったものへ引きこまれていく様子を描くのがとっても上手い!
 子どもの持つ空想遊びの想像力と現実の怪しげな場末のショーとが渾然一体になって、何ともワクワクさせる空間を創り上げています
 さらに成熟しきれない父親と母親、それに対して家族を心配し、必死で家族をつなぎとめようとするペットのいじらしい努力が重なる第一部は、子どもの世界を非常に巧妙に再現したすばらしい物語です。


 それに比べるとペットが成長した後の第二部と第三部の出来は落ちるのですが、第三部のペットの設定というのは、第一部の最初からはなかなか想像できないもので面白いです。
 不思議の世界に住めなくなった子どもはどこへ向かうのか?
 お姫様に慣れなかった女の子は何になるのか?
 第一部を踏まえながらも、ちょっと意外な答えがそこにはあります。


ストレンジ・トイズ (ストレンジ・フィクション)
パトリシア・ギアリー 谷垣 暁美
4309630022