『ブラック・スワン』

 とにかく気の休まらない映画。
 どんな怖い映画でも、どこかに気の休まるシーン、あるいは次の山場に向けての助走シーンのようなものがあるんだけど、この『ブラック・スワン』は、ほぼノンストップでドキッとさせるようなシーンが続く、心像に負担を強いる映画。疲れている人にはオススメできません。
 ただ、逆に言うと、2時間ちかく観客に対して休むことのない緊張感を与え続けているわけで、映画の狙いからすると大成功。しかも、ショッキングなシーンのインフレのような形ではなく、心理的なジワジワとした恐怖でそれを作り上げているところがすごいですね。


 ナタリー・ポートマン演じるバレリーナのニナが、大役に抜擢されたことからのプレッシャーや周囲からの反感などで次第に精神のバランスを崩していくって映画で、いくつかのブログで指摘されていたけど確かに今敏の『パーフェクトブルー』とちょっと似ている。
 ただ、今敏の場合、一度幻覚が走りだすとだんだんインフレを起こしていって止まらなくなってしまうのに対して、この『ブラック・スワン』の監督のダーレン・アロノフスキーは、そのあたりの現実と幻覚の混合のバランスを上手くコントロールしている。
 そして、肉体にこだわった「痛い」表現もこの映画の特徴の一つ。
 個人的にバレエというのは肉体を「自然じゃない」形で使っている表現だと感じていましたが、この映画を見てその思いは強くなりましたし、さらにそうした「自然じゃない」形で肉体を使うバレリーナたちが、いかに肉体を酷使しているかということもわかりました。
 そして、この「肉体の酷使」というものをアロノフスキーは非常にうまく描いていると思います。
 バレエのシーンの撮り方も上手いですが、個人的には引きでバレエの美しさを見せるシーンが有ってもよかった気もしました。というか、正直なところ、そういったシーンでひと休みしたかったというのがありますね。


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