東京事変/大発見

 前作の「スポーツ」が非常に良かった東京事変のニューアルバム。
 椎名林檎は「娯楽」、「三文ゴシップ」とアルバムとしてはやや低迷している感じを持っていたのですが(シングルはいい曲もあったけど)、「スポーツ」はそういう停滞を打ち破る良いアルバムだったと思う。
 

 で、今回の「大発見」。
 「スポーツ」ほど鮮烈ではないけど、なかなかよい。特に伊澤一葉の曲が完全にバンドに馴染んでいて、彼の曲を中心にあたらしい「東京事変らしさ」のようなものが構築されている感じ。
 個人的に浮雲の曲は変にオシャレさを狙っていて、正直なところあまり好きではなかったのですが、伊澤一葉の曲はちょっと泥臭さのようなものもあって、東京事変、そして椎名林檎の世界観にしっくりときている。
 僕としては椎名林檎の良さってのはフェイクな世界や感情が彼女のボーカルによって真実味を持つところにあると思っていて、それはちょっと演歌にも似ている(福岡生まれの椎名林檎が”歌舞伎町の女王”で♪
蝉の声を聞くたびに目に浮かぶ九十久里浜♪って歌うのは、熊本生まれの石川さゆりが”津軽海峡冬景色”を歌うのに通じるものがある)。
 妙に時代がかった歌詞とかも、それがいかにもフェイクっぽいからこそ、逆にフェイクの仮面の下の真実味が垣間見えるんだと思います。


 今回のアルバムでも、例えば”電気のない都市”の♪ああ君が溶けていくよ静寂に♪なんて部分は、古臭く手垢のついたような歌詞でもあるんですが、椎名林檎のボーカルがこんな死んだ言葉を生き返らせている。個人的には東京事変の中でかなり好きな”駅前”を思い出しました。
 ”21世紀宇宙の子”なんかも、「このタイトルと歌詞の狙いは何なんだ?」って感じで聴き始めて、最後の♪悲しみも携えて生きていこう♪あたりは、しっかりと真面目に心に響いてくる。
 ”空が鳴っている”も、曲のメロディと展開だけ取り出せばSuperflyみたいな感じでもあるんですが、力むだけでなく少し曲を崩したようなアレンジが魅力的。
 前作の”生きる”みたいな斬新さを感じる曲はなかったですが、さすが出来。
 椎名林檎の、そして東京事変の世界を楽しめるアルバムになっていると思います。

大発見
東京事変
B004ZVXTAI