『コクリコ坂から』

 あの『ゲド戦記』の宮崎吾朗第2回監督作品で、テレビCMはやたらもったいつけていてどんな映画なのかよくわからない。とりあえず警戒心を抱いてしまいますが、見てみればオーソドックスでよくできた少女マンガ的な青春恋愛学園モノ。気軽に見て楽しむべき映画だと思います。
 

 時は東京オリンピックを目前に控えた1963年、横浜の港南学園の生徒会長にして学園一の秀才の水沼史郎と、ちょっとやんちゃで「週刊カルチェラタン」なる新聞を発行する風間俊、そして女子高生ながらコクリコ館という下宿を切り盛りする松崎海(あだ名はメル)らは、学校側によって取り壊されようとしている文化部の部室棟(部室棟と言うには素敵な建物すぎるかな?)を守るために闘う。
 そこにメルと俊の甘酸っぱい恋愛、さらにはメルと俊の出生の秘密が絡んで…というのが基本的なストーリー。
 カルチェラタンを守ろうとする学生の熱さとか、何かあると急に歌が始まっちゃう部分とか、メルの暮らすコクリコ館の暮らしぶりや住人、そして俊とメルとの甘酸っぱい恋というのは現代ではリアリティがないんだけど、それは1960年代という設定によってクリアー。美しいノスタルジーの利用という点では『三丁目の夕日』なんかにも通じる作品です。
 『耳をすませば』のような少女マンガ的な恋愛を高校生でやろうとしたけど、それではリアリティがないので時代を1960年代に引き戻してリアリティを持たせた、といったところでしょうか。
 まあ、脚本が宮崎駿なので恋愛に関しては気恥ずかしくなるくらいに非常にまっすぐで保守的。でも、『耳をすませば』もうそうでしたけど、「それがいい!」というのもあると思います。


 アニメとしても『ゲド戦記』よりもテンポが良く、キャラクターデザインも『魔女の宅急便』や『海がきこえる』の近藤勝也が担当したことで『ゲド戦記』のように妙にのっぺりとした部分がなく、生き生きとしていると思います。
 相変わらず説明不足な部分もありますが(海はなぜメルと呼ばれているのか?(フランス語の海=ラ・メールから来ているらしい)コクリコ館って一体なんなのか?など)、ドラマとしてダレちゃったり、完全に意味不明な部分はないので、見た後のもやもや感もないです。
 (『ゲド戦記』はセリフが説明臭いのに、肝心な部分が説明不足というもやもや感たっぷりの映画だった…)


 ただ、特筆すべきシーンのようなものは特になし。
 『借りぐらしのアリエッティ』は、小人から見た台所とかのシーンが素晴らしかったけどドラマとしてのまとまりが弱い、という感じでしたが、この『コクリコ坂から』は、ドラマとしてのまとまりはいいけど『アリエッティ』のような印象的なシーンはなかった、という感じです。
 (もしカルチェラタンのデザインが宮崎吾朗によるものなら、そのあたりのセンスはあると思います。もともと建設コンサルタントとか環境デザイナーだった人ですからね。)