今さら何かを言う小説でもないんでしょうけど上手いですね。
テレビ埼玉を見ていた人にしかわからないネタで言うと「うまい!うますぎる!十万石まんじゅう」という感じです。
何が上手いかというと、「殺人」という日常とは隔絶した行為を日常の続きとして描いている点。
主人公の清水祐一が殺人を犯してしまった理由が読んでいる方にはよくわかる。そして、殺されてしまった石橋佳乃。保険のセールスレディをしている一方で出会い系で援交まがいのことをしていて、つまらない意地を張って殺されてもしかたのないようなシチュエーションをつくってしまうんだけど、彼女に関してもどこかしら愛すべき所のあるキャラクターとして描いている(映画だと満島ひかりが演じているらしいですが、まさにぴったりですね)。
清水祐一と逃避行を行う馬込光代についてはちょっと大胆すぎる気もするけど、その逃避行に至るまでの郊外の国道沿いの紳士服店勤務という閉塞状況を丁寧に描いているため、ありえないような行動にも説得力が出ている。
それ以外にも、被害者の父親や加害者の祖母に関してもうまいところに着地させていますし、よくできた小説だと思います。
ただ欠点は、あまりにも読者が「わかる」キャラクターを描いているために、ストーリー展開も「わかってしまう」ところ。謎といえば増尾圭吾をめぐるものくらいで、他はすらっとわかってしまう。
個人的にはもうちょっと強烈な人間描写とかがあったほうが好きではありますね。
悪人(上) (朝日文庫)
吉田 修一
悪人(下) (朝日文庫)
吉田 修一