『ゴーストライター』

 港についたカーフェリーから次々と車が降りていく中で一台だけぽつんと残る車。砂浜に打ち上げられた死体。いかにもサスペンスですよって音楽。ロマン・ポランスキー監督の新作『ゴーストライター』は、今時こんなまっとうなサスペンス映画もないだろってくらいオーソドックスなサスペンス映画です。


 元イギリス首相アダム・ラング(ピアース・ブロスナン)の自叙伝執筆のゴーストライターを、前任者の事故死により破格の報酬で引き受けたユアン・マクレガー。彼はラングに会い、そして完成度が低いために手直しが必要な原稿を見るためにアメリカ東部の島へと向かう。
 ラングはかなり癖のある人物で秘書と不倫中、そのため今まで政治の面でもアドバイスしてきた奥さんとの中は険悪で島の奥にある屋敷は刺々しい雰囲気。そんな中で持ち上がるラングがイスラム過激派のテロ容疑者を密かにCIAに引渡し、その容疑者が拷問によって志望したという告発。首相在任中は高い人気を誇ったラングは国際刑事裁判所へ告発され、戦犯となろうとしていた…。

 
 そんなサスペンスの道具立てが揃った状況で、さらに舞台は島という密室。ユアン・マクレガーは政治家ラングの謎と、前任者の死の謎に迫ろうとしますが、身の回りには次々と不審なことが起こって行くという展開もまさにサスペンスの王道。
 イギリス人が中心のせいか、全体の画面から受ける印象はヒッチコックっぽいんですけど、デ・パルマみたいにあからさまにヒッチコックの模倣をすることはなく、正々堂々と王道サスペンスを見せている感じ。
 ユアン・マクレガーも「巻き込まれている感じ」をうまく演じてます。ピアース・ブロスナンもいい感じなので、もうちょっとラング元首相の出番があってもいいかも。
 

 以下、ちょっとネタバレになるので文字の色変えておきます。
 まあ、「政治的陰謀」としてはどれくらいリアリティがあるんだ?という声は当然あると思いますが、岸信介とCIAの噂を知っていると、「ありかも」と思えるかもしれません。岸信介はCIAから資金提供を受けていたという話が週刊文春に出たことがあります。そのことは『CIA秘録』という本にまとめられているらしいですけど、もしそれが事実なら、まさにこの映画のとおりですよね。

CIA秘録〈上〉―その誕生から今日まで (文春文庫)
ティム ワイナー Tim Weiner
4167651769


CIA秘録〈下〉―その誕生から今日まで (文春文庫)
ティム ワイナー Tim Weiner
4167651777