エリック・マコーマック『ミステリウム』

 マコーマックはかなり昔に『隠し部屋を査察して』読んで以来久々。正直、『隠し部屋を査察して』はグロテスクだったりエロティックだったりするものの、基本的には「奇妙な話を書いてみました」という感じの短篇集で、それほど記憶に残りませんでした。
 なので、発売からしばらくはスルーしていたわけですが、読んでみたらこの『ミステリウム』は面白い!
 たんに奇妙な話というのではなく、ミステリーの形式をとりながらもその謎が微妙に空回りする展開になっていて、スタニスワフ・レムの『捜査』あたりを思い出す、よくできた異色作になっている。
 『隠し部屋を査察して』では、短篇ということもあって奇想にしろストーリーにしろ少し浅い印象がありましたが、この『ミステリウム』はじっくりとマコーマックの奇妙な世界にはまっていきます。


 ジャーナリストのマックスウェルに届いた奇妙な文書。それはキャリックという街で起こった不思議な事件について書かれた薬剤師ロバート・エーケンの手記だった。キャリックの街にやってきた水文学者を名乗る謎の植民地人カーク(植民地人とはアメリカ人を指すと思われる)、彼の出現後に起こり始める怪事件。戦死者の記念碑や墓地がおぞましい形で破壊され、殺人事件も起こる。さらに街に広がった謎の疫病。マックスウェルは事態の収拾を任された行政官ブレアの頼みでキャリックへと赴き、生き残った人々から事件とキャリックの街の秘密を聞き出そうとする…。
 

 こんな感じで前半はカフカ的な雰囲気をたたえたミステリー。現実離れした異様な雰囲気の街の中を主人公が訳もわからずさまよう感じです。
 そしてだんだんと街の秘密、そして登場人物をめぐる因縁がわかってくるにつれ、奇妙な世界の中につながりができて、すべてのミステリーが解決するかに見えるが…。
 まあ、このあたりがマコーマック。普通のミステリーは書かないですよね。

 真実を語ることができるのは、おまえがあまりよく知らないときだけだ。

 小説の中でこの言葉が何回か出てくるのですが、この言葉こそまさにこの小説を表している言葉といえるでしょう。


ミステリウム
エリック・マコーマック 増田 まもる
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