『ヒミズ』

 実は園子温監督の映画は初。
 というわけで、今までの作品との比較はできませんが、とりあえず染谷将太二階堂ふみの二人が熱演していて、画面からパワーを感じさせる映画だったと思う。特に二階堂ふみは、かなりエキセントリックで一歩間違うとイタくてしょうがないような役をうまく演じていて素晴らしかったと思う。宮崎あおいに似ていて、「野生な宮崎あおい」という感じでした。
 

 中学三年生の住田はボート屋を営む家に暮らしていて、周囲には震災で全てを失ったホームレスたちが暮らしている。住田の父も母も両方ともダメな大人で、特に父親はたまに来ては金をせびり、住田に「おまえなんか死ねばよかった」と悪態をつく最悪な男。そんな中でも、「普通に」暮らしていきたいというのが住田の願いであり、同級生の茶沢さんはそんな「人とは違った」住田に魅力を感じている。
 中学を卒業したらボート屋を継いで平凡に暮らしたいという住田、そこに居場所を見つけようとするホームレス、家庭から逃げるように住田につきまとう茶沢さん。しかし、住田の生活は母の蒸発と父の借金を取り立てに来たという借金取りの訪問で、だんだんと狂気と暴力をはらんだものになっていく…。


 あらすじとしてはこんな感じ。
 やり場のない不安、正体のはっきりしない世間への反発を抱いた中学生を描いた作品として、個人的に塩田明彦の『害虫』や『カナリア』を思い出しました。
 特に茶沢さん演じる二階堂ふみ宮崎あおいに似ていることもあって、『害虫』と印象がかぶる部分もありました。
 もちろん撮り方は全然違っていて塩田明彦園子温のように、演劇的といってもいいほどに過剰な演技を使わないし、露悪的とも言えるようなしつこい暴力描写はない。ただ、ちょっとしたことをきっかけに「普通」の生活からどんどん離れていってしまう、中学時代の「焦燥感」といったものは両者に共通すると思う。
 変な喩えをすると、『害虫』はブロック崩しの玉がちょっとずつずれた場所に打ち返されて行って結果的にブロクがガンガン変な形に崩されていく映画だとすると、『ヒミズ』はありえない設定で玉をブロックの中に強引に入れこみつつ最後には綺麗に元の位置に玉が戻ってくるような映画。


 茶沢さんの家庭とか、ホームレスの暮らしぶりとか(さすがに神楽坂恵のようなきれいなホームレスはいないだろ)、この『ヒミズ』にはありえない設定があってどうかと思いましたし、あまりに過剰な感情の振幅とか、過剰な暴力描写とかについても正直しつこいとも思いました。また、「震災」というものがこの映画の中で消化されているとも思えません(さすがにこのスピードで完全に消化はできないだろうけど)」。
 個人的には塩田明彦の映画のほうが好きです。
 ただ、先程、園子温は露悪的だと述べたけど、ラストが投げっぱなしに近い塩田明彦の『害虫』に比べると、ラストを手垢のついたポジティヴなセリフで締めてみせた園子温は真面目だとも思いました。
 原作が好きな人は、おそらく原作とは違って「希望」が感じられるラストに不満を持つかもしれませんが、「震災」を映画に抱え込んでしまった以上、このラストは仕方がないでしょう。
 このインタビュー園子温監督は「希望に負けた」と言っていますが、「負け」を背負ってポジティヴに語ってみせたところに、この映画の一番いいところがあるのかもしれません。


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