『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

 9.11テロで父親を失った少年の冒険を描いた映画で、原作はジョナサン・サフラン・フォアの評判の高い同名小説。それをもとに『フォレスト・ガンプ』や『ベンジャミン・バトン』の脚本家エリック・ロスが脚本を書き、監督は『リトル・ダンサー』や『めぐりあう時間たち』のスティーヴン・ダルドリー、しかも父親にトム・ハンクスですからかなり豪華な布陣です。


 主人公のオスカーはアスペルガーの疑いもあるちょっと落ち着きのないエキセントリックなところもある少年。トム・ハンクス演じる父はそんなオスカーの知的好奇心を伸ばし、彼を様々な冒険へといざなう父親だったが、彼はたまたま9.11テロのときにツインタワーに居合わせたために死んでしまう。
 遺体も発見されず埋葬されたのは空っぽの棺。そんな父の死を受け入れられないオスカーは、父のクローゼットで青いツボに入った謎の鍵を見つけます。そして封筒には「BLACK」の文字。オスカーは父の残した秘密を探るために鍵に合う鍵穴を探してニューヨーク中を「BLACKさん」を探す冒険をはじめます。

 
 こんなあらすじを持つこの映画は、まず「エリック・ロストム・ハンクス」という看板から想像できるように「いい映画」です。親子の絆や子どもニューヨークに住むさまざまな大人たちとのふれあい、オスカーが出会う言葉を失った老人との交流など、「いいお話」が詰まっています。
 そして、ニューヨークから一歩も出ていないのに一種のロードムービーとして成立しているのもこの映画の面白いところ。9.11テロ以降、地下鉄にも他人の運転する車にも乗れなくなったオスカーは、見知らぬ土地を訪れるようにニューヨークの様々な場所で「BLACKさん」を探します。この映画はこの冒険の撮り方がうまいですし、何よりもオスカーを演じたトーマス・ホーンがよいです。
 オスカーはアスペルガーの疑いもあるようにややKYな子どもで、必ずしもみんなから共感を得るタイプではないのですが、そのKYなところと子どもならではの純粋さが絶妙なバランスで演じられています。さすがスティーヴン・ダルドリーだけあって、子どもの演技の付け方は上手いですね。


 ただ、 原作からいろいろと改変があるらしく、原作ファンからは不満もあるようです(このブログを参照)。
 確かにエリック・ロスの脚本はややあざといところもあって(これは『フォレスト・ガンプ』や『ベンジャミン・バトン』もそうですよね)、ブランコの挿話がエリック・ロスの付け足しであるというは納得。映画の締めとしては必要かもしれませんが、ややわかりやすすぎるエピソードですよね。
 また、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」というタイトルの由来に関しても映画を見ただけだとはっきりとはしません。
 ですから、原作を読んでいると「違う!」という部分も多いのでしょう。
 もっともこの映画単体で見た場合、個人的にはよくできている映画だと思いましたし、多くの人が「いい映画を見た」と感じられるような作品に仕上がっていると思います。


 こちらが原作本。
ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
ジョナサン・サフラン・フォア 近藤 隆文
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