THA BLUE HERB、5年ぶりの4枚目。
震災を経てどんなリリックを出してくるのかと思いましたが、予想通り政治的なものも増えています。しかも同梱の特典CD「NUCLEAR,DAMN」は反原発のソング。
この「政治化」に関してはファンにも賛否のあるところでしょうが、個人的には評価したいです。
前作「LIFE STORY」は、トラックもラップも非常にかっこよくて、日本のHIPHOPの中では頭ひとつ抜けている感じがしましたが、リリックの内容は基本的に自分たちTHA BLUE HERBのサクセスストーリーをうたったものが多かったので、アルバム全体での「メッセージ」はやや弱い気がしていました。
一方、その後に聴いた2ndの「Sell Our Soul」は「路上」のようなネパールのストリートをうたった力のある曲など、もっと尖った内容のリリックがあるのですが、個人的には「当事者性」といったものがいまいちでやはり「メッセージ」としては弱い気もしました。
その点、このアルバムには政治的な「主張」がある。
ただ、政治的なメッセージに関しては、他のリリックに比べると「普通」の感覚のものが多く、やや甘い気がするのも確かです。
例えば、「GET READY」では全編政治批判のフレーズで、
3月12日からの日本 WHAT'S GOING ON 続くミッション
暴かれるコトの真相 政治の貧困 共有される希望のVISION
こっちを見ている気がしねえ 親が国会議員の二代目 I DON'T LIKE IT
リツイートされて消えたってもしかして 何事もなかったように知事は再選
国家存亡のこの間 及んでも会議は踊るよ じゃれ合っている派閥の大物
長老 魑魅魍魎 深すぎる病巣 永田町末期症状
といった具合にラップがあり、”君の一票 WHERE YOU GO? 清き一票 HERE WE GO”とうたいます。
反原発のソングの「NUCLEAR,DAMN」でも、"地震発生 直後 絶対安静 中がどうなっているか誰にも解らねえ/大本営発表は後出しじゃんけん 口癖は想定外 まるでお話にならねえ/北北西に向かって風まかせ」とか「人類史上初 2発の原爆 あとに選択 54基の原発」とか相変わらず上手いリリックですが、メッセージ自体はいたって「普通」の感覚。
ですから、ファンの中にはこういった「平凡」な政治的なメッセージが邪魔だと感じる人もいるでしょう。確かにこれらの政治的なトラックはある意味でこのアルバムの完成度を削いでいるといえるのかもしれません。
けれでも、震災に対する政治の対応を見て不満を持つのは当然だし、それをリリックに込めるのも至って自然。こういう状況の中でも「自分語り」しかなかったら、それはそれで問題でしょう。
ということで、この方向性は評価したいですね。
また、前作の「LIFE STORY」よりもBOSSの声は熱を帯びていて、全体的にエモーショナル。トラックも前作のクールさを引き継ぎつつも、やはり前作よりエモーショナルな気がします。
政治的な曲以外でも、厳しいミュージックシーンをラップした「LOST IN MUSIC BUSINESS」、力強いトラックとラップが炸裂する「BRIGHTER」あたりがいいですね。
そして何と言ってもラストを飾る「RIGHT ON」。
これを聴いた時の高揚感は半端ない。ラストの”これでトータル”の言葉にはしびれます。
この4枚目、今まで聴いたTHA BLUE HERBのアルバムの中では一番好きですし、ここ最近の日本の音楽の中でも相当いいんじゃないかと思います。
THA BLUE HERB "TOTAL" CM