『ヘルタースケルター』

 沢尻エリカは熱演でまさに渾身の演技。映画としても写真家出身の蜷川実花だけあって画はとてもきれい。ただ、テンポはやや悪くて長い。
 というのが、とりあえずの感想で、多くの人がそう思うんじゃないでしょうか?
 特に演出も過剰気味なので、もう少しシーンを短く切り替えていったほうが良かった気がします。原作を書いた岡崎京子は、ここぞという時にばっと開放感のある見開きのコマを使ったりしてテンポを出していましたが、この映画は決めゴマの連続といった感じで、逆にそのぶん平板になってしまっているところがあります。
 脚本としては、原作のりりこのモノローグや「語り」の部分をうまく取り込めていない感じがします。


 けれども、役者はいいと思う。
 吉川こずえの水原希子はハマリ役。窪塚洋介の御曹司役もそれっぽいですし、大森南朋の麻田検事も漫画との印象は違いますが悪くないと思います。
 あと、キンちゃんを演じた新井浩文がいい!見るまでは漫画のキンちゃんのイメージとまったくかぶりませんでしたが、これはいいキャスティングだったと思います。


 ただ、問題はマネージャーの羽田ちゃんが寺島しのぶってところ。
 原作では23歳でとにかく彼氏含めて沢尻エリカ演じるりりこに引っ掻き回される役なんだけど(寺島しのぶが演じるということで役の年齢は35歳に引き上げられてあっる)、寺島しのぶがやるとどうしても貫禄がありすぎて、「母性」のようなものまで感じさせてしまう。
 綾野剛と恋人同士という設定も厳しいですし、ここだけはミスキャスト。ひょっとしたら「脱ぐのがOK」な女優が寺島しのぶしかいなかったのかとも思いましたが、脱いでるわけでもないですし、特に過激なシーンがあるわけでもないですしね。
 羽田ちゃんがりりこに吉川こずえの顔をむちゃくちゃにしてと頼まれるシーン、原作だと最初っから不可能だって分かるんですけど、映画だとそれを引っ張りますし、「寺島しのぶならできるか?」と思わせちゃうんですよね。
 とにかく、全体的にりりこのすごさと空虚さを引き立てるはずの羽田ちゃんがうまく機能していない感じです。


 それでも沢尻エリカの熱演には見るべきものがある。沢尻エリカは全然好きじゃないのですが、何と言っても最近の日本の女優ではなかなか無いレベルですべてをさらけ出した演技をしていますし、だんだんと崩壊していくりりこの姿もメイクを含めてよく表現しています。
 沢尻エリカなくして成立しなかった映画といえるでしょう。


 もっとも、『ヘルタースケルター』はやはり岡崎京子の原作。これは文句なしに素晴らしいマンガだと思います。


ヘルタースケルター (Feelコミックス)
岡崎 京子
4396762976