チャットモンチー/変身

 チャットモンチーの5枚目のアルバム。何といってもドラムの高橋久美子が脱退して二人組になってからはじめてのアルバムということで、果たしてどうなっちゃっているのか?と期待と不安を持って聴いたアルバムでしたが、不安が的中した部分もあり、逆に吹っ切れてよくなったところもありといった感じですね。
 チャットモンチーいしわたり淳治のプロデュースでデビューして、1st、2ndアルバムはほぼすべてがいしわたり淳治のプロデュース。3rdで亀田誠治を一部の曲に迎えたり、セルフプロデュースをしたりとしていましたが、サウンド的にはいしわたり淳治によって構築されたものが続いていた感じでした。
 ところが、その「いしわたり色」に飽きたらなくなったのか、前作の「YOU MORE」は全曲セルフプロデュース。出来としてはおそらく賛否がわかれるアルバムだと思いますが(個人的にはインディーズっぽくてけっこう好き)、3人で自分たちの音を作っていこうという姿勢がよく分かるアルバムでした。
 

 そんな中でのドラムの高橋久美子の脱退。手探りで自分たちの音を作っていた3人から1人抜けて、しかも特にサポートメンバーを入れないではたしてバンドサウンドが成り立つのかという点は心配がありました。
 ところが、奥田民生アジカン後藤正文にプロデュースを頼んだ曲はやはりきちんと仕上がっていますし、二人ということで変な気負いもなく原点回帰した感じの曲もあってバンドサウンドという点では、オリジナリティを頑張って出そうとしていた前作よりも素直に仕上がっているバンドだと思います。
 ただ、やはり二人でやれることというのは限られているわけで、前半はちょっとごちゃごちゃした印象ですし、前作の"Last Kiss"のような今までになかった方向性の芽というのはなくなってしまったのかもしれません(でも、電子ピアノを使った"ウタタネ"は今までにはない曲でいいかも)。


 そして高橋久美子の脱退の影響として忘れてはいけないのは歌詞の問題。
 デビューアルバムの「耳鳴り」は、福岡5、高橋3、橋本4。2ndの「生命力」は福岡6、高橋5、橋本2。3rdの「告白」は、福岡5、高橋6、橋本2。4thの「YOU MORE」は福岡3、高橋5、橋本3。こんな具合に基本的にチャットモンチーの曲というのは福岡・高橋の詞に橋本絵莉子が曲をつけるという形で作られていて、しかもここ最近のアルバムでは高橋久美子の作詞曲の割合が増えています。
 しかも高橋久美子の歌詞が一番安定していて、詩的表現もうまいです。もちろん3人それぞれ味があるのですが、平均点が一番高いのは高橋久美子だったと思います。 
 こうなると、福岡晃子が頑張んなきゃいけないのかと思ってましたが、今回の「変身」の作詞状況はこんな感じ。
 

1. 変身           作詞・橋本絵莉子
2. ハテナ          作詞・橋本絵莉子
3. テルマエ・ロマン     作詞・橋本絵莉子
4. 少女E           作詞・橋本絵莉子
5. コンビニエンスハネムーン 作詞・橋本絵莉子
6. Yes or No or Love     作詞・福岡晃子
7. 初日の出         作詞・橋本絵莉子
8. 歩くオブジェ       作詞・橋本絵莉子
9. きらきらひかれ      作詞・福岡晃子
10. ふたり、人生、自由ヶ丘  作詞・橋本絵莉子
11. ウタタネ         作詞・福岡晃子
12. 満月に吠えろ       作詞・福岡晃子

 福岡晃子の割合は変わらずに高橋久美子が抜けたぶんをほぼ橋本絵莉子が埋めています。
 まあ、この橋本絵莉子の言語センスが独特なんですよね。"コンビニエンスハネムーン"なんて、このアルバムの中でももっともキャッチーな曲だと思うけど、サビが♪日本生まれ 日本育ち 日本語を話す 日本酒は飲めないけど 日本でただひとり ただひとりの私♪。 
 何回も聴いていると妙にハマってくるんですけど、サビとしては変なサビですよね。他にも"歩くオブジェ"もストリングスをバックに橋本絵莉子の声がよく伸びるいい曲だと思いますけど、タイトルからして変な歌詞だと思う。
 というわけで、高橋久美子のようにさらっと詩的なことを書くタイプがいなくなってしまったので、今までのようにタイアップ曲をこなしていくのはちょっと厳しいかな、とも感じる。"テルマエ・ロマン"なんかはピンと来ないですしね。
 けど、一見奇妙な橋本絵莉子の歌詞も、曲にはハマっているし、その曲と相まってだんだん染みてくるわけで、これはこれでいいのかもしれない。
 前作で新たなスタートを切ったと思ったチャットモンチーの2度目のスタートといったアルバムです。



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チャットモンチー
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