「美術にぶるっ!」(東京国立近代美術館60周年記念特別展)

 東京国立近代美術館の60周年の特別展示ということで、東京国立近代美術館のコレクションが出揃ったような展示。展示してある作品は第1部の「MOMATコレクションスペシャル」が約240、第2部の「実験場1950s」が約300の合計550弱。正直、第2部はちゃんとは見れませんでした。
 ということで第1部のみの感想になりますが、単純に思ったのは、「明治・大正・昭和戦前・戦中期の洋画は面白い」、「明治以降の日本画は残念ながら低調」、「現代美術は時代がたって文脈が消えるとやはり厳しいものも多い」という3つのこと。


 まず、近代の洋画ですが、なんといっても今回の展示で印象に残ったのは岸田劉生
 岸田劉生は、教科書に載っていてちょっと怖い「麗子像」のインパクトが強すぎて、ああいう絵ばかりを描いている印象がありましたが、初期の細密描写はかなりのもので、特に今回展示されていた「道路と土手と塀」という風景画の細密描写と歪んだ遠近法はなかなかすごい。強い印象を残す絵です。
 あとは藤田嗣治。「自画像」に描かれた猫は何ともユーモラスだし、「五人の裸婦」の白い肌と床に敷かれた布の鮮やかな色の対比も印象的です。そして、この美術館のある意味で目玉とも言える「アッツ島玉砕」と「サイパン島同胞臣節を全うす」の2つの戦争画。ともに異常なまでの迫力を持っていて、「宗教画の発達しなかった日本における宗教画」という感じです。
 外だと野田英夫の「サーカス」なんかも面白い絵でした。


 それに比べて明治以降の日本画はやはり低調な気がする。遠近法とか西洋画の技法が入ったぶん、江戸時代にあったダイナミズムとかユーモアが失われてしまった感じ。全然ダメというわけではないですが、江戸時代の日本画を見るようなワクワク感は生まれなかったですね。
 見た中では黒い背景に金色を中心に描いた屏風絵の川端龍子「草炎」がインパクトありました。


 そして、現代美術はやはり文脈から切り離すと「???」となる作品が多いですね。
 例えば河原温の「Date Paintings」、1994年の日付が書かれたプレートみたいなものが12点並んでいるんですけど、見ただけじゃ何がしたいのかわからないですよね。もちろん作者には意図があるのだろうし、おそらく何らかの文脈に基づいているのでしょうが、それが切り離されると終わりのような気がします。
 その点、草間彌生の「冥界への道標」は、男性器のようなものをかたどったものが画面からたくさん生え出している気持ち悪い作品なのですが、作品自体に力があって別に作者の意図とか文脈を知らなくても、思わず見てしまうものがあります。


 ただ、とにかく日本の近代美術をこんなに大量に一気に見れる機会はなかなか無いと思います。ちゃんと見ようと思えば、かなり体力を必要とする展示ですが、見ておいて損はないと思いますね。