『ゼロ・ダーク・サーティ』

 2011年5月のウサマ・ビン・ラディン殺害、そこにいたるまでのCIAの女性分析官マヤの活躍を描いた作品。監督は『ハート・ロッカー』でアカデミー賞を受賞したキャスリン・ビグロー、主人公のマヤをジェシカ・チャステインが演じています。
 一応、冒頭で「証言を元にした映画だ」というコメントが入りますが、実際に作戦に携わったCIAの職員の証言を詳細に得ているわけではなさそうなので、この映画に描かれていることがどこまで事実なのかはよくわかりません。
 

 ただ、全体的にリアリティを追求する姿勢はあって、CIAによる情報を得るための拷問も描かれていますし、ビン・ラディンの連絡員とみられる男を携帯電話の使用状況から追い詰めていく様子、そして最後のビン・ラディン殺害作戦の様子などは緊迫感があります(ビン・ラディン殺害作戦はやや長い気もするけど)。
 ビン・ラディン殺害作戦の時に特殊部隊のシールズがステルス性能を持った特殊仕様のUH-60 ブラックホークで発進するシーンなんかは特にカッコいいです。


 ただ、『ハート・ロッカー』もそうなんですけど、個人的にキャスリン・ビグローの描く人間ドラマはいまいちピンとこない。
 主人公のマヤは最初は上司の拷問とかに引いていてそうした乱暴なやり方にやや批判的です。けれども、同僚が自爆テロで殺されてからは「ビン・ラディンぜってぇー殺す!!」みたいになってそのまま一直線。確かに人間の感情としてわからなくはないですが、実際に自分もテロに襲われたりするわけなので。もう少し自分のやっている仕事への葛藤があってもいいんじゃないか?と思ってしまいます。
 また、マヤは高卒でスカウトされ、すぐにパキスタンでのビン・ラディン探索チームに加わるわけですが、マヤがそれほどまでに見込まれた理由というのもよくわりません。
 もちろんマヤの人間的な背景がなくても、ミッションを追うことで映画は成立するのですが、それにしてはこの映画はビン・ラディン殺害ミッションを「マヤの物語」にしてしまっているように感じるんですよね。