『はじまりのみち』

 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』、『河童のクゥと夏休み』、『カラフル』などのアニメーション映画の監督を務めてきた原恵一の実写作品。
 木下恵介監督の生誕100年記念作でもあって、戦時中に『陸軍』のラストシーンに軍からクレームが付き失意の中にあった木下恵介が、病気の母を疎開させるためリヤカーに乗せて山越えしたというエピソードを描いた作品です。
 

 アニメの監督が実写に挑戦というと、「ちゃんとした画面になっているのか?」、「役者の演技は大丈夫なのか?」というような心配も浮かびますが、もともとアニメ時代からオーソドックスで手堅い演出をしている人ですし、演技に関しては主演が加瀬亮なので心配なし。
 この映画は一種のロードムービーで、基本的に加瀬亮演じる木下恵介とその兄のユースケ・サンタマリア、母親で病気のためにほとんど喋れない田中裕子、そして雇われた便利屋の濱田岳の4人で話が進んでいきます。
 加瀬亮ユースケ・サンタマリアが田中裕子を乗せたリヤカーを引っ張り、そのあとを荷物を積んだリヤカーを引いた濱田岳が続いていくのです。 
 ですから基本的にたんたんとしているのですが、そこでアクセントになっているのが濱田岳の演技。前々から「ちょっとおもしろ感じ」を醸し出していましたけど、今回は文句なしに面白いです。特に、戦時中のひもじい中で想像上のカレーや白魚のかき揚げを食べてみせるシーンは絶品。「エア食事選手権」があったら優勝できるんではないかと思えるほどです。全体的に濱田岳はいいアクセントになっていますね。
 そしてやはり木下恵介役の加瀬亮が良い。濱田岳に「青瓢箪」と呼ばれたりしていますし、かなり重度のマザコンでもあるのですが、木下恵介の「芯の通った真面目さ」のようなものをうまく演じています。
 

 作品としは、原恵一の木下監督へのリスペクトが強く出ていて、途中には『陸軍』のラストシーンが5分以上挿入されますし、ラストでは木下監督の代表作のダイジェスト映像が流れます。
 ラストのダイジェスト映像は少しやり過ぎの感もあるのですが、原監督の「木下監督の作品を見て欲しい!」という思いが伝わってきます。
 ということで、原恵一のアニメ作品のファンよりも、木下恵介のファンの方が楽しめるのではないかとも思いますが(個人的に木下監督の作品は断片的にしか見てないのでわからない面もありますけど)、ラストシーンは『アッパレ!戦国大合戦』。『アッパレ!戦国大合戦』を見た人はニヤリとできると思います。