『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』

 今までの『思想地図β』とはまったく違っていて、『BRUTUS』とかあの手の各号ごとにワンテーマをメインに据えたビジュアル雑誌を思い起こさせるような見た目です。
 まず、目に入ってくるのは新津保建秀の撮ったチェルノブイリとその周辺の写真。
 昔のSF映画を思わせる最初のページの「金の廊下」(チェルノブイリ原発の建屋の中の通路)、これまた昔のSF映画や日本のアニメとかを思い起こさせるアナログ計器がぎっしりと並んでいるチェルノブイリ原子力発電所2号機制御室、エヴァンゲリオンを思い出させる送電線群や、新石棺の工事現場、そして廃墟となったプリピャチの街。
 70年代生まれの自分からすると、すべてが「昔に見た未来像」という感じでなんだか懐かしくもあり、奇妙な感覚に襲われます。


 これはチェルノブイリが1986年の事故によって、その時点で「時が止まってしまった」からなんだと思います。
 チェルノブイリは1978年に第1号機が運転を開始したそうですが、その時の最先端の「未来」がそのまま保存されている場所、それがチェルノブイリなんだと、これらの写真を見て感じます。
 福島第一原発チェルノブイリよりももっと古い原発なので、「未来」のイメージはないかもしれませんが、立ち入りが制限された原発の周辺では、ある種の「懐かしさ」がそのまま保存されていくことになるのかもしれません。


 しかし、本当に「時が止まってしまった」わけではありません。
 そこに住んでいた人は1986年から27年の歳月を過ごしており、廃炉に向けた作業は今なお続いており、そして人々の記憶の中にある事故の姿も変化しています。
 それがわかるのがこの雑誌に載っているウクライナの人々へのインタビューです。事故や原発に対するスタンスといったものはそれぞれ違ったりもするのですが、多くの人が課題と考えていくのが「自己を語り継ぐこと」であり、その手段として「観光=ツーリズム」があります。


 福島第一原発の周辺が今後どのようになっていくのかはわかりません。2011年の3月11日で「時が止まってしまった」周辺の街や村は、忘却されていくのかもしれませんし、小奇麗な公園とかが整備されるのかもしれませんし、オカルトスポットみたいになるのかもしれません。
 しかし、いずれにせよ、そこで暮らしていた人々、事故に遭った人々との「時間の流れの違い」は埋めがたいものになっていくでしょう。
 この雑誌でインタビューされているウクライナの人びとは、ニュアンスはややちがうにせよ、口々に「ゲームであっても観光であってもチェルノブイリに興味を持ってくれることはいいことだ」と言います。事故が起きても、決して「時が止まるわけではない」ことを知ってもらうためには、メディア経由ではない直接の体験が必要なのです。


 もちろん、そのベストな手段が「観光」なのかどうかはわかりません。今回の取材班のツアーをアレンジしたアレクサンドル・シロタ氏は、できればいわゆる観光ツアーではなく「教育を目的とした旅」だけにしたいとインタビューで述べていますし(102p)、ウクライナ政府の当局は、チェルノブイリ・ツアーを情報の透明化による原発推進政策の一貫と考えてるようです(ドミトリー・ボブロ氏のインタビュー参照)。
 ただ、それでもこの『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』を読むと、福島の事故においても、何らかの形で一般の人が事故現場にアクセスできる方法を整えていくことが、福島の原発周辺の地域の人々にとっても、一般の人々にとっても非常に重要だと思いました。


 こうしたことについては、津田大介の記事が非常によくまとまっていて、考えるべきポイントを示しています。
 買うかどうか迷っている人は、まず本屋さんでパラパラと写真を見て、津田大介の記事を読んでみるといいと思います。


チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1
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4907188013