スピッツ/小さな生き物

 ちょっと遅ればせながらですがスピッツのニューアルバム。
 「三日月ロック」以来、スピッツのアルバムは買っていなくて、今回もレンタルでいいかな?と思っていたのですが、Twitterなどで「ちょっと「ハヤブサ」っぽい」という声を聞き、「フェイクファー」、「ハヤブサ」時代のスピッツが好きな身としては、「これは買わねば!」と思って買いました。


 アルバムタイトルにもなっている2曲目の"小さな生き物"。何と言っても♪負けないよ 僕は生き物で 守りたい生き物を 抱きしめて ぬくもりを分けた 小さな星のすみっこ♪というサビの「生き物」という言葉が印象的なのですが、この「生き物」という言葉、「ハヤブサ」の収録曲"ジュテーム"でも、♪カレーの匂いに誘われるように 夕闇を駆け出す生き物が♪と使われています。
 普通の人間だと、♪カレーの匂いに誘われるように 夕闇を駆け出す♪まで来たら、ほぼ「子どもたち」としか続けられないと思うのですが、草野マサムネは、ここに「生き物」を持ってきて一気に詩の世界を深くしてみせています。
 この"小さな生き物"でも、やはり「生き物」という言葉で、単純な恋愛ソングからもっと射程の長いものへと変わってますよね。


 最近、音楽雑誌とか読まないので詳しいことは知らないのですが、草野マサムネは震災で大きなショックを受けたという話で、確かに震災後はじめて発表されたシングル"さらさら"を聴くと、その落ち込みみたいなものが感じ取れるのですが、その思いを単純に言葉にするのではなく、「詩」としての広がりを持ったレベルにまで持ってきているのはさすが。
 例えば、5曲目"オパビニア"の♪あそこへとつづく坂道を 息を切らしてかけ上がり 恋も希望も取り返す ちょっとやそっとじゃ終われない♪とか、7曲目の"野生のポルカ"の♪叫ぶ 笑う マネだっていいのさ 傷の記憶は「まあいっか」じゃ済まんけど♪とか、震災後に聴けばそう聞こえるけど、別に「震災」抜きでも素直に心に響く「詩」になっていると思います。


 そして、今回のアルバムでなんといってもいいのが、その7曲目"野生のポルカ"から8曲目のインスト曲"scat"、9曲目"エンドロールには早すぎる"の流れ。
 「ハヤブサ」以来、個人的にはあまり感じなかったスピッツの「バンド」としての存在感を感じます。
 "野生のポルカ"の前に前に出る感じ、そして力強い"scat"を挟んでの、アップテンポの曲の中に寂しさと切なさが漂う"エンドロールには早すぎる"。この3曲の流れはほんとうに素晴らしいですね。


 他にも12曲目の"潮騒ちゃん"もいいですし、ここ最近のスピッツのアルバムの中では断然いい気がしますね。個人的には「ハヤブサ」以来の出来といった感じです。



小さな生き物 【期間限定盤】(SHM-CD + DVD)
スピッツ
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