『ゼロ・グラビティ』

 評判の高い『ゼロ・グラビティ』ようやく見てきました。3Dで。
 3D映画は実は『アバター』以来。『アバター』はすごい!と思ったもののけっこう気持ち悪かったので、3Dを避けてきました。その後3D化された数多の作品は、「どうせ『アバター』のように最初っから3Dで勝負をかけているわけでもないんでしょ?」という感じもありましたし。
 ところが、この『ゼロ・グラビティ』は3Dにする必然性のあるものだったし、そして緊迫感があって映画としても美しいシーンが有る。『アバター』は3Dという技術を活かすために架空の星という舞台を用意したわけですが、この作品でアルフォンソ・キュアロンは「無重力状態」という3Dの強みが発揮されるフィールドを見つけ出した感じです。


 ストーリーは、スペースシャトルが宇宙空間での事故に巻き込まれ、サンドラ・ブロック演じる女性科学者とジョージ・クルーニー演じる宇宙飛行士が宇宙空間に投げ出され、必死で生き残りを目指すというもの。
 登場人物は、ほぼこの2人。しかも、途中からは地上との交信も途絶えてしまい、「地上から生還のために手を尽くす」みたいなドラマもありません。カメラは宇宙空間に放り出されたサンドラ・ブロックを追い続け、観客もひたすらサンドラ・ブロックとともにサバイバルを行っていくことになります。
 この、ドラマを極力排除してひたすらサバイバルを見せるというのは、ちょっとポール・グリーングラスの『ボーン・スプレマシー』あたりに似ているかもしれません。あの映画ではひたすらボーンの行動を見せることで緊迫感を持たせていましたが、この『ゼロ・グラビティ』もドラマを削ぎ落とすことで緊迫感を高めています。


 そして、その緊迫感に追い打ちを掛けるのが、無重力の怖さ。
 投げたボールがどこまでも飛んで行く無重力の世界は自由ではありますが、まさに「自らに由る」しかない厳しい世界でもあります。地上でジャンプされば自然に落ちますが、宇宙空間では何らかの力をかけて止まる努力をしないと止まらないわけです。
 この優雅に見えて恐ろしい宇宙空間を、この映画では3Dを使って見事に見せています。ロケットの中で漂う涙から、襲ってくる破片や、漂う炎、それらが時に美しく、時に凶暴に漂っています。


 このように、この映画はまずアトラクションのように「体験」する映画なのですが(『アバター』もアトラクションのような映画だった)、それだけにとどまらないのがこの映画の特徴。
 サンドラ・ブロックが宇宙ステーションで宇宙服を脱いだあとのシーンや、宇宙ステーションの破片が大気圏に突入して落ちていくシーンなどの美しさは、まさに映画的な画の美しさで、さすがアルフォンソ・キュアロンという感じです。
 90分ちょっとの上映時間もこの手の映画にはぴったりでしょう。