『思い出のマーニー』

 ようやく見てきました。
 動員の方はいまいちらしいですが、見たらそれも納得。別につまらなくはないですし丁寧に作ってあるいい映画なんですけど地味ですね。
 ちょうど、『海がきこえる』と『耳をすませば』を比べると、ストーリーとして圧倒的によく出来ているのは『海がきこえる』だけど、金曜ロードショーで何度も見れるのは『耳をすませば』という現実があって、この『思い出のマーニー』は『海がきこえる』の系列の映画。
 この『思い出のマーニー』はもともと、外国を舞台にしたファンタジーなのですが、できるだけ無理のない形で舞台を北海道の釧路湿原に移し、主人公の感情の動きを丹念に追うことで、現代の日本にも通じる少女の成長の物語に仕上げています。
 お屋敷をはじめとする室内の美術の凝りようはジブリの作品の中でもピカイチですし、釧路湿原の描き方も美しいです。


 ただ、少女の成長を丁寧にリアリティを持って描こうとしたことが、逆にアニメとしての面白さを削いでいる面はあるのかも。
 『耳をすませば』なんかは、表向きは少女の成長を描いているように見えて、雫は杉村を振った夜に聖司と浮かれて踊ってるし、「物語を書く!」とか宣言して周囲を無視して暴走するし、聖司は最後にいきなり結婚を持ちだすし、とてもじゃないけどリアルな成長のあり方を描いているとは思えません。
 というわけで、少女の成長というテーマにきちんと取り組んでいるのは、圧倒的にこの『思い出のマーニー』なのですが、逆に言うと、『耳をすませば』には、そういったリアリティとかを無視したところの面白さがあって、『思い出のマーニー』のにはそれがない。
 また、宮崎駿のアニメにある「動きの面白さ」のようなものもない。だから、丁寧+リアリティってものがやや単調さを生み出している気もするんですよね。
 

 実はこれは『海がきこえる』の抱える欠点でもあって、思春期の男女の心理を他のジブリ作品にはない水準で描いているんだけど、「アニメの快楽」のようなものは少ない。個人的にはかなり好きな作品なんですけど、宮崎駿高畑勲がつくりあげたジブリの金字塔的な作品に比べると、まあ、敵わないですよね。
 この『思い出のマーニー』も評価としてはそんな感じです。


 ただ、主人公の杏奈が育ての親に不信感をもつところの「福祉観」のようなものが気になりました。まあ、子どもだから仕方がないんだけど、この時点で生活保護受給者に対する偏見のようなものがビルトインされているっていうのは、今の日本社会の縮図とはいえ、どうなんでしょう?


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