ホセ・ドノソ『別荘』

 『夜のみだらな鳥』と並ぶチリの作家、ホセ・ドノソの傑作がついに邦訳で登場。
 やはり「すごい!」としか言いようのない小説で、これを読むとソローキンでさえもまだまだスケールが小さいと思えるほど。
 イカれた話をイカれたテンションで書く作家、イカれたふりをするのがうまい作家というのは結構いると思うのですが、ドノソのようにイカれた話を余裕たっぷり貫禄たっぷりに書く作家というのはいないですね。
 で、そのイカれ方がその時代特有のファッション的なものではなく、もはや古典とも言っていいほどのスタイルを獲得しているのもすごい。
 

 ここまで褒めると、じゃあどんな話なんだ?ということになりますが、Amazonに載っている紹介文は以下の通り。

とある小国の政治・経済を牛耳るベントゥーラ一族の人びとが毎夏を過ごす、異常な繁殖力をもつ植物グラミネアと、「人食い」原住民の集落に囲まれた別荘。ある日、大人たちが全員ピクニックに出かけ、別荘には33 人のいとこたちだけが取り残された。日常の秩序が失われた小世界で、子どもたちの企みと別荘をめぐる一族の暗い歴史が交錯し、やがて常軌を逸した出来事が巻きおこる……。「悪夢」の作家ホセ・ドノソの、『夜のみだらな鳥』と並ぶ代表作にして、二転、三転する狂気をはらんだ世界が読む者を眩惑する怪作。


 「33人」というのが尋常ではない数ですが、この紹介を読むと『十五少年漂流記』とか『蝿の王』のような、子どもたちだけが孤島に取り残される話のように思えるでしょう。
 実際、物語の前半は、ベントゥーラ家の異常なしきたりや、それぞれの子どもの抱える闇のようなものが丁寧に描かれていて、大人たちが去った後にこれが爆発するのだろうなと予感させます。
 この本は第1部「出発」と第2部「帰還」の2部仕立てになっているのですが、第1部の「出発」は良質のミステリーを読むような感じで第2部でのドラマを期待させるのですが、第2部の始めから物語は読者の予想をはるかに上回る形でジャンプします。
 

 どこまでジャンプするかということはお楽しみということでここでは触れませんが、第2部では作者によるこの小説についての語りなども頻繁に登場し、さらには作者自身が登場するというメタフィクション的な展開も見せます。
 そして、もうどうやったってこの物語の結末をつけることなんて出来ないだろうという状況になるのですが、最後は神話的とも言っていいようなラストをつけてきます。
 

 間違いなく今年読んだ中でNo.1の作品ですし、20世紀後半の代表する傑作と言ってもいいと思います。
 さらにドノソに関しては、長らく絶版だった『夜のみだらな鳥』が水声社から復刊されるようですし、個人的にガルシア=マルケスやバルガス=リョサ以上と思っているドノソの凄さが広く知られることを期待したいです。


別荘 (ロス・クラシコス)
ホセ ドノソ Jos´e Donoso
4773814187


ドノソについては、これも絶版ですが中編集の『三つのブルジョワの物語』も素晴らしいですね。

三つのブルジョワ物語 (集英社文庫)
ホセ・ドノーソ 木村 榮一
4087602397