ミュージカル仕立てのコメディというそれほど好きではないジャンルの映画なんですけど、周防正行監督ということで見てきました。
まあ、尖ったところはないですけど、老若男女が安心して楽しめて笑える映画。カリカチュアライズが上手い周防監督ですけど、今回もその技は冴えている。
舞妓になりたい女の子の奮闘を、言葉(方言)という道具立てを使って笑いに変えつつ、同時にシンデレラ・ストーリーに仕立て上げています。
ただ、周防監督だから大ハズレはないと思いつつも、心配したのは結局は竹中直人や渡辺えり子で笑いを取るだけなんじゃないかということ。
確かに『Shall we ダンス?』の竹中直人と渡辺えり子は面白かったですが、あれから20年近く経っている中であのキレを期待するのは無理があるわけで、この二人頼みだったらちょっと厳しいかなという印象を持っていました。
ところが、映画の冒頭で登場する最初の客が高嶋政宏とジローラモってところでその懸念は払拭されました。
最近急速に胡散臭くなってきた高嶋政宏と天然で胡散臭いジローラモの起用で、竹中直人の胡散臭さだけに頼るのではないことが明確になったからです。
そして、キレが鈍った竹中直人の代わりにキレているのが長谷川博己!
まあ、老若男女向けなんで『地獄でなぜ悪い』の50%くらいのキレだけど、それでも振り切れています。
長谷川博己は胡散臭さとかっこよさのライン上を全速力で駆け抜けることができるような役者ですが、今回の役もそんな感じ。歌のシーンなんかも他の役者がやると、何だか気恥ずかしい感じになってしまうかもしれませんが、長谷川博己はそういった見る側の気恥ずかしさをスパッと切ってくれます。
また、主役の新人・上白石萌音(「かみしらいしもね」という読みだそうです)もいいですね。
スタイルもあまり良くなくて、最初は本当にダサい感じなのですが、歌もうまくて、最後の舞妓姿は非常に可愛いです。
もっとも、『それでもボクはやってない』のようなリアルな社会問題とつながっている話ではありませんし、『Shall we ダンス?』のようなリアルな世界との地続き感のようなものもないので、あくまでも「楽しい話」のレベルの映画になりますね。
強いて言えば舞妓=アイドルへの批評的な視点がもっと強くても良かったと思います。
「舞妓はアイドルなんだ」ってセリフがあったり、舞妓のその後みたいな話が女将さんの富司純子から語られたり、アルバイト舞妓の二人がAKBだったり、明らかにAKB的なアイドルブームへの批評的なものがあるんですけど、あんまり前景化されずに流れちゃった感じです。
でも、最初に書いたように老若男女が楽しめる映画ってことで、これはこれでいいと思います。