エステルハージ・ペーテル『女がいる』

 松籟社の「東欧の想像力」シリーズの『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし』が素晴らしかった、エステルハージ・ペーテルの作品が<エクス・リブリス>シリーズで登場!
 というわけで非常に期待して読んだのですが、正直これはいまいちだった…。


 ほぼすべて「女がいる」という書き出しから始まる97の長くても4ページほどの断章で構成されているのが、この『女がいる』という小説。
 形式からもわかるように、いわゆる「ポストモダン」的な作品で、一貫したストーリーのようなものはありません。また、「女」も特定の女性を指すわけではなく、その姿を変幻自在に変えていきます。
 「女がいる」という書き出しの後には、たいてい「僕を愛している」か「僕を憎んでいる」という言葉が続くのですが、ここからもわかるようにこの小説で描かれる「女」にはとらえどころがありません。時に美しく、時に醜く、時にエロチックといった具合に、その姿は揺れ動き続けるのです。

 
 ただ、ラカンの「女は存在しない」ではないですけど、この手の「女」の描き方というのは実は陳腐なものでもありますよね。
 原著は1996年ということで、これでも新鮮さはあったのかな?とも思いもしますけど、やはりやや古臭い「ポストモダン」を感じてしまいます。
 『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし』では、「ポストモダンである」というよりは、中欧のねじれた歴史によって、歴史の連続性や個人の主体性が剥奪され、「ポストモダンであることを強いられる」状況が描かれていたのですが、この『女がいる』にはそういったねじれや屈折はありません。
 もしかすると原著のハンガリー語の使い方にもっと面白みがあるのかもしれませんが、基本的に訳者がドイツ語から重訳したものをハンガリー人がチェックしたようで、そのあたりが伝わっていないのかもしれません。
 個人的には、圧倒的に『ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし』のほうをお薦めします。


女がいる (エクス・リブリス)
エステルハージ ペーテル 加藤 由実子
456009036X


ハーン=ハーン伯爵夫人のまなざし―ドナウを下って (東欧の想像力 3)
ペーテル エステルハージ 早稲田 みか
4879842656