『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

 本年度のアカデミー賞受賞作。
 予告編を見た時は、落ち目のスターが奮起してブロードウェイでの劇場公演の大役にチャレンジするような話かと思っていましたが、ちょっと違いました。
 冒頭からもう公演の直前であり、主人公のリーガン・トムソン(マイケル・キートン)がレイモンド・カーヴァーの短編小説『愛について語るときに我々の語ること』を舞台向けに脚色し、自ら演出と主演を務めることはすでに決まっています。
 ところが、公演直前に重要な役どころの俳優がアクシデントで降板。そこに代役として天才肌の俳優マイク・シャイナー(エドワード・ノートン)がやってくるところからドラマが動き始めます。迷路のように入り組んだ劇場の中で繰り広げられる人間模様がこの映画の中心です。


 映画の中でも演劇が行われますし、舞台と登場人物を切り詰めていることもあって、この映画はある意味で演劇的です。
 ただ、カメラワークと音楽とCGは演劇にはないもの。登場人物の移動とともにジャズドラムの音がなり、その音に乗って行くような形でカメラが登場人物を追いかける。ある種のスタイルを確立させたような撮影と音楽だったと思います。
 もっともCGに関しては、普通。特に宮崎アニメに見慣れた身としては空をとぶシーンは物足りなく思えました。


 ユーモアという点でもこの映画はなかなか優れていて、主人公に元バットマンマイケル・キートンを配して、『アベンジャーズ』やロバート・ダウニーJrについて語らせるという設定自体に風刺が効いていますし、笑えるシーンも多かったです。
 この笑いが起こるのも役者の演技が良かったから。全体的に良かったと思いますが、特にマイケル・キートンエドワード・ノートンは良かったですね。エドワード・ノートンは前から好きな役者でしたが、今回の天才肌でどこか胡散臭い役者の役はハマっていたと思います。
 あとは、ラストですかね。単純なハッピーエンドで終わらせないのはいかにもアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(『21g』や『バベル』の監督)らしいですが、あそこまで宙吊りのラストにしなくてもいいのではないかとは思いました。