ヘレン・マクロイ『歌うダイアモンド』

 アメリカの女性推理作家ヘレン・マクロイの傑作選。もともとは晶文社の「晶文社ミステリ」の1冊だったものが、このたび創元推理文庫から出ました。主に1940年代後半から1960年代にかけての中短編が選ばれています。
 「晶文社ミステリ」と聞いてピンときた人もいるかもしれませんが、「晶文社ミステリ」はスタージョンの『海を失った男』やイーリイの『ヨットクラブ』が入ったシリーズで一筋縄のミステリではありません。このマクロイの『歌うダイアモンド』もほぼSFといっていいような作品から、オカルト風味のミステリまでさまざまな作品が収録されています。
 収録作は以下の通り。

東洋趣味 (シノワズリ)
Q通り十番地
八月の黄昏に
カーテンの向こう側
ところかわれば
鏡もて見るごとく
歌うダイアモンド
風のない場所
人生はいつも残酷

 
 このうち、「Q通り十番地」、「八月の黄昏に」、「ところかわれば」、「風のない場所」はSFと言っていい作品。ただ、一口にSFと言っても核戦争後の世界を描いた「風のない場所」は叙情的である一方、食事をセックスのように恥ずかしいものだと考える火星人と地球人の交流を描いた「ところかわれば」はドタバタ劇であると同時に、ジェンダーSF。「奇想」的な作品でもありますね。

 
 「東洋趣味 (シノワズリ)」、「カーテンの向こう側」、「鏡もて見るごとく」、「歌うダイアモンド」は、オカルト風味のミステリ。
 「東洋趣味 (シノワズリ)」では中国の古美術をめぐる伝説、「鏡もて見るごとく」ではトッペルゲンガー、「歌うダイアモンド」ではUFOと、それぞれオカルト的なものが登場しますが、それぞれミステリとしてのある程度合理的な謎解きをしているのがこれらの短編の特徴。「東洋趣味 (シノワズリ)」が特にそうですが、オカルト的な雰囲気を描き出すのが上手く、そこからきちんとミステリに着地させる所が見事ですね。
 「カーテンの向こう側」は、カーテンの向こう側に何かがいるという患者の夢からはじまり、物語にきちんとした結末はつくのですが、それでも最後に悪夢が残る展開で、これもなかなか上手いです。
 

 「人生はいつも残酷」は、殺されたはずの男が15年以上ぶりにその街に帰ってきて自分を殺そうとした人間を探そうとする話。二転三転するストーリーとしっかりと貼られた伏線が活きている王道ミステリ。シャーロック・ホームズ・シリーズとかを思わせる作品でもあります。

 
 このようにさまざまな作品が楽しめるのがこの本。「晶文社ミステリ」が気になっていた人にはもちろんお薦めですし、国書刊行会の<未来の文学>シリーズを読んでいる人などにもお薦めです。


歌うダイアモンド (マクロイ傑作選) (創元推理文庫)
ヘレン・マクロイ 好野 理恵ほか
4488168108