ジーン・ウルフ『ジーン・ウルフの記念日の本』

 ジーン・ウルフの第二短篇集で原題は「Book Of Days」、アメリカの祝祭日や記念日をモチーフにそれに関係する短編が並んでいます。
 第一短篇集と第三短篇集から編まれた日本版オリジナル短篇集『デス博士の島その他の物語』(これは傑作!)に比べると、一つ一つの短編のページ数は短く、また読後感も軽い印象です。ただ、印象は軽いと言っても、そこはジーン・ウルフなので、短いページの中に色々な仕掛けがあったり、または大きな文脈に埋め込まれた話になっています。

 収録作は以下のとおり。

鞭はいかにして復活したか〈リンカーン誕生日〉
継電器と薔薇〈バレンタイン・デー〉
ポールの樹上の家〈植樹の日〉
聖ブランドン〈聖パトリックの日
ビューティランド〈地球の日
カー・シニスター〈母の日〉
ブルー・マウス〈軍隊記念日〉
私はいかにして第二次世界大戦に敗れ、それがドイツの侵攻を防ぐのに役立ったか〈戦没将兵追悼記念日〉
養父〈父の日〉
フォーレセン〈労働者の日〉
狩猟に関する記事〈狩猟解禁日〉
取り替え子〈ホームカミング・デイ〉
住処多し〈ハロウィーン
ラファイエット飛行中隊よ、きょうは休戦だ〈休戦記念日〉
三百万平方マイル〈感謝祭〉
ツリー会戦〈クリスマス・イヴ〉
ラ・ベファーナ〈クリスマス〉
溶ける〈大晦日


 「鞭はいかにして復活したか」、「継電器と薔薇」は1970年に発表された作品ですが、「鞭はいかにして復活したか」は刑務所の囚人を労働力として利用している近未来の世界を描いた話で、「継電器と薔薇」はコンピュータによって世界的規模で結婚のマッチングを行うサービスの話。登場する機器などは古臭いですが、見事に現在の社会の一端を予言してみせた話といえるかもしれません。
 「カー・シニスター」は車がSEXをし、子どもを産むというアホらしい話なのですが、書き方が上手いのかけっこう読ませます。「ブルー・マウス」で描かれるのは、戦争で人を殺すことを忌避する人々による部隊がふくまれた軍隊の話。「私はいかにして第二次世界大戦に敗れ、それがドイツの侵攻を防ぐのに役立ったか」は、チャーチルヒトラーが登場し、自動車レースをするという変わったお話。最後に明かされる語り手の名前も含めていろいろと凝っています。
 「フォーレセン」は、映画の『トゥルーマン・ショー』を思わせる、というかもっと奇妙な世界で展開されるビジネスマンの話。主人公はわけのわからないままにわけのわからないマニュアルを読んで、わけのわからない仕事をする、そんな奇妙な話。ちょっとスラデックを思い出しました。
 「取り替え子」はホラーのような話ですが、主人公が朝鮮戦争に従軍して中国で捕虜になっていたという設定が効いています。


 とりあえず面白く感じた作品はこんなところ。最初にも書いたように、ジーン・ウルフにしては軽めの作品が多く、一つのアイディアだけで展開されているような作品もあります。
 もちろん、いろいろな謎や仕掛けも施されてはいますが、自分の分かる範囲でその謎を楽しめばいいような形になっていると思います。


ジーン・ウルフの記念日の本 (未来の文学)
ジーン・ウルフ 酒井昭伸
4336053200