『ザ・ウォーク』

 1974年にワールドトレードセンターで綱渡りしてニューヨークの市民を驚かせたフランスの綱渡りの大道芸人フィリップ・プティの挑戦を描いた作品。このフィリッピ・プティに関しては、『マン・オン・ワイヤー』というドキュメンタリー映画がつくられているのですが、それを原作しつつドラマとして再構成したのがこの作品になります。
 監督はロバート・ゼメキス。3Dを駆使した映像表現になっています。


 ただ、特に3D映画が好きでもない身としては、最初は見に行く予定はありませんでした。けれども、ネット上の評判がかなり良かったので見に行ったところ、確かにこれはなかなか良くできた映画でした。


 まず、3D映画としてよく出来ていると思います。個人的に、モンスターが飛び出してくるくらいなら別に3Dなんかじゃなくてもいいだろと思っていて、今までわざわざ3Dで見た映画というのは『アバター』と『ゼロ・グラビティ』くらいです。
 だけど、この映画の高所を引き立たせるための3Dというのは効果があったと思います。とにかくワールドトレードセンターの高さというのが、この実際にあったというパフォーマンスの目玉でもあり、この映画の見せ所でもあるのですが、確かに3Dによって、この高さは引き立ちました。高所恐怖症の人は心臓に悪いかもしれないくらいです。


 もう一つの魅力は、この映画がワールドトレードセンター、そして9.11テロの追悼映画となっている点です。
 この綱渡りのパフォーマンスはワールドトレードセンターが完全に出来上がる前に行わています。下の階はオフィスなどが入居しているのに、試乗会などはまだ内装工事中といった具合なのです。日本じゃあまり考えられない状態ですが、だからワイヤーなどの仕掛けが持ち込めたわけで、警備をかいくぐってどうやってロープを張ったのかということは映画でもドラマとして面白く描かれています。
 この映画の中で、建設中のワールドトレードセンターの評判はよくありません。外見が凝った建物ではなく、たんに高い匿名的なビルが二本建っているだけだからです。
 しかし、綱渡りのパフォーマンスによってワールドトレードセンターに「命が吹き込まれる」ことになります。これはヒロイン役の女性がいう言葉ですが、まさにこのパフォーマンスによってワールドトレードセンターは匿名的なビルではない特別なビルになるのです。


 そして、御存知の通り、現在、ワールドトレードセンターは2001年に起きた9.11テロによってその名を歴史に刻みました。けれども、それと引き換えにワールドトレードセンターはその存在を失っています。
 もはや失われてしまったワールドトレードセンターの「オープニング」を見せることで、ワールドトレードセンターを追悼し、それによってテロの犠牲者をも追悼しているというのが、この映画の隠されたテーマになります。


 主演はジョゼフ・ゴードン=レヴィット。このような無謀なチャレンジをするだけあってちょっと変わった人物でもあるのですが、うまく演じていると思います。
 個人的には、いくらお金を積まれてもこんなことは絶対にやりたくないですが、綱渡りの最中に「自分は今人生で再興の瞬間にいる」というようなことを言うのですが、その気持はなんの抵抗もなくすぅーっと入ってきました。