『キャロル』

 とにかくテレーズ役のルーニー・マーラのかわいさが衝撃的。
 服装といい佇まいといい完璧で、キャロル(ケイト・ブランシェット)が「天から降ってきた」と形容する通りの存在。ケイト・ブランシェットもさすがの存在感で、この二人が揃ったということだけで「魅せる」映画になっていると思います。
 重ねて書きますが、ルーニー・マーラの服装は良過ぎで、百貨店の店員として被らされるサンタの帽子といい、伊勢丹の袋みたいな配色の帽子といい、青のワンピースと言い、フードに赤と白のストライプの淵が入っている感じの黒のコートといい、「女子はみんなこういう服を着ればいいんじゃないか?」と思わせるほどかわいかった!まあ、ルーニー・マーラだからなのかもしれませんが…。

 原作はパトリシア・ハイスミスの小説『The Price of Salt』。しかし、同性愛を扱った小説ということもあって、クレア・モーガンという名義で1952年に発表され、1990年になってパトリシア・ハイスミスの執筆であることが公にされました。
 というわけで、映画の売りとしては、レズビアンという要素が前面にでていますが、アメリカ映画でよくある「50年代の満たされない女性もの」と言っていいかもしれません。
 ここで「50年代の満たされない女性もの」というのは、『めぐりあう時間たち』(ジュリアン・ムーアのパート)や、同じくジュリアン・ムーアが出ている『エデンより彼方に』とか、レオナルド・ディカプリオケイト・ウィンスレットが共演した『レボリューショナリー・ロード』とか。
 アメリカの一つの理想を体現した1950年代を舞台に、経済的に十分に恵まれた専業主婦だけど何かが満たされず思い切った行動に出る女性が描かれている作品です。


 50年代は経済的に豊かだったと同時に、道徳的な縛りはまだまだ強かった面があり、それがラブロマンスを引き立たせるというのも、これらの作品の一つの特徴です。
 『エデンより彼方に』では、それが黒人の庭師との恋という形でしたが、この『キャロル』では、それが同性愛ということになります。
 と、このエントリーを書くために『エデンより彼方に』について改めて調べたんですけど、この『キャロル』と同じく監督がトッド・ヘインズだったんですね。どおりで50年代の描き方が上手いわけです。


 ただ、この映画が『エデンより彼方に』の変奏じゃない部分は、キャロルとテレーズの二人の関係性が非常に微妙な点。
 出会いは一目惚れなのですが、そこからどちらかが一方的にプッシュするわけではなく、二人の誘惑合戦のような形が続きます。
 「合戦」などと書いてしまうと、派手なアピールを想像してしまいますが、それがまた微妙な押したり引いたりで、あからさまなものではありません。また、同性愛のタブーというブレーキもあって、欲望はでてきた抑圧されたりで、二人の関係はなかなか着地しないのです。
 そのあたりのはっきりしないところが、ややドラマとしては弱いかもしれませんが、ラストの着地は見事。二人の女優の魅力を再認識させてくれます。


エデンより彼方に [DVD]
トッド・ヘインズ
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