『マネー・ショート』

 『マネー・ボール』の原作者マイケル・ルイスのノンフィクション『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』をもとにした映画。サブプライムローン問題とそこから発生したリーマン・ショックアメリカ経済が大打撃を受けた中、サブプライムローンの破綻に賭けた男たちの群像劇になっています。


 しかし、サブプライムローンの問題とかを知っている人ならわかると思いますが、あの時話題になった奇妙奇天烈な金融商品を予備知識のない人間に説明するのは至難の業です。個人的に竹森俊平『資本主義は嫌いですか』の説明がわかりやすいと感じましたが、それでもかなりの紙幅をとって説明しています。
 その難解な金融商品をいかにして2時間程度の映画の中で説明するのか?
 この映画では、いきなり関係のない人物に説明が丸投げされたり(行動経済学者のリチャード・セイラーも出てた)、登場人物が観客に語りかけたりしてその複雑なしくみを説明しようとしています。
 これらの試みはそこそこうまくいっていますが、ドラマがぶち切られる感は否めず、前半はドラマとしてはやや弱いです。
 
 
 この映画では、サブプライムローンの問題点に気づき、空売りをしかける(破綻する方に賭ける)人物として、マイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)、マーク・バウム(スティーヴ・カレル)、さらに若手の二人組がでてくるわけなんだけど、マイケルとマークについては、それなりに人物の背景といったものを描こうとはしています。
 ただ、正直なところ、そのあたりのドラマはいまいちで、そんなに人物像に深みのようなものは出てこない。


 けれども、マークがサブプライムローンの実態を調査するためにフロリダに行くシーンあたりから、現実とリンクしはじめて面白くなってきます。
 今、「リンク」と書きましたけど、金融商品と実際の経済状況という点からするとまったくリンクしていなくて、ウォール街金融商品が完全な砂上の楼閣であることが見えてきます。
 あとは、その楼閣がいつ崩れるかということなのですが、これがなかなか崩れない。「そのタイミングがいちなのか?」、後半はこのドラマで盛り上がります。


 この映画はリーマン・ショックの一断面を描いているだけで、サブプライムローン以外のさまざまな要因は捨象されています。ですから、この映画を見ればリーマン・ショックの原因が全て理解できるというものではありません。
 ただ、この映画で描かれているアメリカ金融界の「愚かさ」は、きっと日本のバブルにも共通したものであり、その「愚かさ」と、その「愚かさ」が一般の人々に与える影響の大きさを教えてくれる内容になっています。


世紀の空売り―世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)
マイケル・ルイス 東江一紀
4167651866


資本主義は嫌いですか それでもマネーは世界を動かす (日経ビジネス人文庫)
竹森 俊平
4532197171