『リップヴァンウィンクルの花嫁』

 見終わった感想としては「良かった」のだけど、なかなか語るのが難しい映画。
 まず、映画が思わぬ方向に転がっていく映画なので、できるだけ予備知識なしで見たほうがよいでしょう。というわけで、できるだけストーリー展開に触れないような形で感想を書きたいと思います。


 まず、前半は結婚式のサクラなど、いかにもなネタを散りばめながら今という時代を切り取ろうとする映画。
 主人公の皆川七海(黒木華)は、教師なのですが派遣の教師と通信制の学校のパソコン指導を掛け持ちし、更にはコンビニのバイトまでしている状況で、いわゆる世間のイメージする「教師」とは程遠い存在です。
 そんな教師生活に限界を感じた七海はネットで知り合った、こちらは大学の付属校で教えるエリートっぽい教師の男と知り合い、結婚することになります。
 ところが七海の家族にはいろいろと事情があり、いかにも育ちが良い感じの新郎の家のように親戚が集まりません。そこで、七海はネット上の知り合いの綾野剛演じる安室行舛(あむろゆきます)という名前の男に親戚のサクラを手配してもらうことになるのです。


 前半は、結婚式のサクラに代表されるように現代社会における「フェイク」が次々と登場します。結婚式での子役を使った両親への挨拶などはその最たるものですし、コンビニでバイトしている派遣の教師とかも、「聖職」とかそういうイメージからすると「フェイク」以外の何物でもないです。
 こうした「フェイク」に彩られた現代の社会を、是枝裕和っぽく描いているのがこの映画の前半です。岩井俊二の作品は久々なので、岩井俊二是枝裕和に寄せるような感じで撮っているのか、最近の是枝裕和岩井俊二に寄せていたのかはわかりませんが、少し変わった設定を普通っぽく撮っていくスタイルになっています。


 里中真白(Cocco)が登場してからが後半。映画はリアリティのある世界を離れ、少しファンタジーっぽい展開を見せます。
 正直、ここは長く感じました。岩井俊二らしいきれいなシーンが多いのですが、トータル3時間の映画というのはさすがに長いです。そして、全体の4分の2から4分の3くらいのところが一番長く感じました。


 ところが、ファンタジーのように見えていた物語の中で、真白が急に資本主義の本質のようなことを語り始め、ラスト近くの黒木華綾野剛、りりィの3人による圧倒的なシーンへと流れこんでいきます。ここまでずっと、ある意味で資本主義を体現してきた綾野剛の変貌ぶりは見事です。


 とりあえず、長いですが見て損はないです。
 黒木華は、雰囲気的には蒼井優に似ていますが、蒼井優だとどうしても垣間見えてしまうギラギラした部分を完全に隠し通せているところが良い所なんではないかと思いました。
 岩井俊二だけあって、非常に魅力的に撮れています。


 小説もあるようですが、読む前に見たほうがいいのではないかな。

リップヴァンウィンクルの花嫁
岩井 俊二
4163903771