スピッツ/醒めない

 前作「小さな生き物」が大傑作だったスピッツの約3年ぶりのフルアルバム。
 全体を通して聴いた印象は、昔のスピッツ、それこそ『ハチミツ』でブレイクする前を思わせます(特に12曲目の"ブチ"とか)。メロディを活かす比較的シンプルなアレンジで、「気負い」のようなものがきれいに抜け落ちている感じです。


 そんな中で、とりあえず良いのが2曲目の"みなと"
 ゆったりめのテンポの優しい曲で、サビはこんな歌詞。

汚れている野良猫にも いつしか優しくなるユニバース
黄昏にあの日二人で 眺めた謎の光思い出す
君ともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びた港で


 これを聴いて思い出すのが、前作「小さな生き物」の"エンドロールには早すぎる"。
 ♪エンドロールには早すぎる 潮の匂いがこんなにも 寒く切ないものだったなんて♪の歌詞には東日本大震災津波の影を感じさせたわけですが、この"みなと"ではその命を奪った海との「和解」が歌われているように感じる。
 きっと、この曲に代表されるようにこのアルバムは、震災があって、そこで受けた衝撃を「小さな生き物」というアルバムに昇華させた草野マサムネが、その衝撃と消耗から立ち直ったことを示すアルバムなんだと思います。


 他にも曲のつぶは揃っていて、特に11曲目の"ヒビスクス"はサビの盛り上がりもあって、アルバム後半のアクセントになっています。
 インパクトといったものはあまりありませんが、気持よく何度も聴けるようなアルバムに仕上がっていると思います。



 

醒めない(通常盤)
スピッツ
B01FDQTCL8