『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

 原題は「The Post」。スティーブン・スピルバーグの監督作品でベトナム戦争に関する最高機密文書を当時のニクソン政権の圧力に逆らって報道したワシントン・ポストの話になります。
 最初のスクープはニューヨーク・タイムズのもので、ワシントン・ポストは後追いなのですが、ニクソン政権がニューヨーク・タイムズに記事の差し止め命令を求める訴訟をおこす中で、女性社主のキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)が掲載の決断を迫られるところがドラマの中心となります。
 掲載を求めるデスクのベン・ブラッドリーにはトム・ハンクス。ハリウッドの大御所の共演にスピルバーグということで映画自体は非常に安定した出来です。今回は特にハッとするような画はないのですが、変に小細工に走ったところもなく、「王道」という感じの画面と脚本になっています。


 それにしても、トランプの時代にスピルバーグメリル・ストリープトム・ハンクスという大御所を使って人間が大きな正義をなす映画をつくったのに対して、クリント・イーストウッドが『15時17分、パリ行き』で素人を使って神に導かれた小さな正義の映画を作るというのは興味深いと思いました。
 この『ペンタゴン・ペーパーズ』はエスタブリッシュメントが闘う映画でもあります。メリル・ストリープ演じるキャサリントム・ハンクス演じるベン・ブラッドリーも反ニクソンではありますが、キャサリンマクナマラの友人ですし、亡くなった夫はケネディともジョンソンとも親しい関係にあった人物です。また、ベンも反骨的なジャーナリストですが、ケネディ夫妻とは友人でした。
 最初に機密文書を持ちだした人物もエリートですし、この映画はエスタブリッシュメントがその責任を果たす映画といえるでしょう。

 
 一方、もちろん時代の変化もありますが、イーストウッドはそういったエスタブリッシュメントを信じていない人ですよね。
 特に『15時17分、パリ行き』は、登場人物にエスタブリッシュメントを配置しないだけでなく、ハリウッド・スターというエスタブリッシュメントも使わないという徹底ぶりで、イーストウッドエスタブリッシュメント嫌いが突出して現れた映画のように思えました。
 この『ペンタゴン・ペーパーズ』も『15時17分、パリ行き』も、それぞれの監督のキャリアの中での傑作というわけではありませんが、この対照的な映画がほぼ同時期に公開されたというのは面白いですし、両作とも見てみることをおすすめします。