『レディ・バード』

 先日、『ウィンストン・チャーチル』を見て、同じジョー・ライト監督の『つぐない』を思い出して、そういえば『つぐない』で素晴らし存在感を見せていたシアーシャ・ローナンはどうしてるんだろ? と思っていたら、主演の映画が公開されるというので、この『レディ・バード』を見てきました。
 ほぼ前情報なしで行ったのですが、個人的な経験とシンクロするところもあり、個人的には非常に印象的な映画でした。


 舞台は2002年のカリフォルニア州サクラメント。カリフォルニアというと開放的で先進的なイメージがありますが、このサクラメントは保守的な田舎です。
 主人公のレディ・バードカトリック系の私立高校に通う3年生。学校が男子部と女子部に分かれており、保守的な教育が行われています。そんな中でも、レディ・バードは、クリスティンという本名を嫌がり常に「レディ・バードです」と名乗るなど、ややエキセントリックで他の生徒とは違う何かを持ちながらも、決してクラスの中心ではないような微妙な立ち位置の生徒です。
 家族は父と母と兄(おそらく養子でレディ・バードとは血が繋がっていないっぽい)とその兄の同棲相手、父はリストラされそうで、兄は大学こそでたもののの近所のスーパーでバイト中、精神科の看護師(でいいのかな?)をしている母が一家を支えているような状況です。


 そんなレディ・バードの高校3年生の1年間を描いたのがこの映画なのですが、まずこの映画は母娘の映画という軸があります。
 ラストのあたりは『6才のボクが、大人になるまで。』を思い出しましたが、親からの子どもの旅立ちを描いた映画としてこの映画はうまくできています。Wikipediaによると監督から撮影監督に「『大人は判ってくれない』や『6才のボクが、大人になるまで。』の女性版になる作品にしたい」という話があったそうですね。
 気の強いしっかりとした母だからこそ娘との衝突も絶えないのですが、そのあたりを母親役のローリー・メトカーフが非常にうまく演じています。


 また、この映画は1年間の出来事を、あまりドラマチックな構成にはせずに、スナップショットのように見せていくわけですが、そんの個々のエピソードと、主人公のレディ・バードの非凡な存在であるたいと思いつつ、平凡な価値観を捨て去るほどには突き抜けていない感じの絡まり具合が絶妙です。
 私立学校なので金持ちの同級生もいるわけですが、そのあたりの格差をどうしても気にしてしまい、それを埋めるためにエキセントリックな行動に走ってしまう感じとか、学校的な価値観に反発しつつもミュージカルに参加して頑張ってしまうところとか、青くさい恋とか、友人関係のもつれだとか、陰謀論を語るイケメンバンドマンとか、教員として多くの高校生と接してきた身からすると非常に「わかる」エピソードが次々と出てきます。
 そして何よりも、シアーシャ・ローナンの演技や存在感がそれらのエピソードに自然さを与えています。

 
 脚本・監督は女優としても活躍しているグレタ・ガーウィグ。そんなに凝った画面づくりをしているわけではありませんが、脚本は非常に練りこまれており、全体の流れも良いです。
 最初にも述べたように自分の教員としての過去の経験とシンクロする部分もあり、いろいろな思い出が蘇ってくるような映画でしたが、そういうものがなくても良くできている映画だと思います。


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