『スターリンの葬送狂騒曲』

 スターリンの死を題材にしたコメディ映画。イギリスとフランスの合作で、いかにもイギリス的なブラックな笑いに満ちた映画なのですが、素直に「楽しかった!」と言っていいのか、やや引っかかる映画でもあります。
 スターリンが倒れた後、フルシチョフ、ベリヤ、マレンコフ、ブルガーニン、カガノーヴィチ、モロトフといったスターリンに仕えた有力者たちが、その後継をめぐってドタバタ劇を繰り広げるのですが、各キャラクターはいずれもカリカチュアしてあり、滑稽な行動を繰り広げます。倒れたスターリンをみなで運ぶシーンなどは爆笑できます。
 また、倒れたスターリンのために医者を呼ぼうとするが、医師団事件の影響でモスクワにはまともな医者が残っていないという下りなどもブラックな笑いとして楽しめる範囲です。


 ただ、スターリニズムの実態を多少なりとも知っていると、果たしてこの題材を「笑い」にしてしまっていいのかという一抹の疑問も残ります。
 また、ベリヤの描き方が単純で、「スターリン亡き後実権を握ろうとする悪いやつ」程度の設定なので、政治ドラマとしての深みはでません。実際は、ベリヤはスターリンの死の直前はスターリンの信頼を失っており、失脚するかもしれなかったという話もあります。そういう描写が特にないため、ベリヤがスターリンの死後に改革を訴える理由があまり見えてきません。
 最後やエンドロールで、権力闘争の「毒」の部分を出そうとしていたので、ベリヤに関してはもう少し違った描き方もあったかもしれません。


 スターリニズムについて何も知らないければ、素直に笑える映画ですし、知っていると何か引っかかるという、なんとも評価が難しい映画です。